梵天丸様『ひとつ眼』になられる




 とうに日も落ちて、月も中天に達しようという時間。

 三つの行灯に照らされた室内に、ジジむさい兄ちゃんとオレよりちょっと年上の少年が並んで正座している。
 まだ十代後半のはずなのにえらいフケ顔の小十郎と、十になるやならずのくせに妙に大人びた佐助。
 そして布団の上で二人に向かい合うように正座する梵天丸5歳。中身は三十路。
 ちなみに行灯はオレのお手製だ。


 な、なんか異様に空気が重苦しい……。


 オレの部屋だというのに肩身が狭いような気がするのは何故だろう。身体の面積の問題か? 
 二人ともやけに堂々としやがって、なんなんだその落ち着き。
 意味もなく悔しいからここは一つ動揺させてやらなくては。

 よし、オレの一言で度肝を抜いてやるぜ!


 「というわけで右目をくり抜いてもらいたいんだ」

 「承知いたしました」


 ちょwwwおまwwwww


 「冗談でございます」

 なんという爆弾発言返し。
 それにしてもこの小十郎ノリノリである。

 佐助が( ゚д゚)ポカーンとしとるじゃないか。自重しろ。
 あとすごい真面目な顔してそういうこと言われると怖い。

 「最近は梵天丸様に合わせることを覚えまして」

 ろくなこと覚えやがらねぇ。
 でもオレのせいもあるんじゃねえかこれ。
 この間は時宗丸がキターとか言ってたような気もするし。

 発言には気をつけよう……。

 「あー……ええと、若様の右目を切り取るっていうか…取り出せってことで……いいのかな?かな?」

 遠慮がちながらもなんとか話を元に戻そうとする佐助のおかげで、早い段階で会話の脱線が止まった。
 ありがとう、と感謝すると同時に、コイツ絶対苦労性だなとこっそり思う。
 どんな場面でも必ず貧乏クジを引くタイプだ。
 そういう奴が独りいると回りは楽だけど。
 
 「その解釈でオッケー。まあどうせ使いもんにならないし、見る人もあんまり気分良くないっしょ」

 オレも顔洗う時邪魔だし。

 「若様!?」
 「そのようなことは…!」
 
 いやいや二人とも無駄な慰めとかいらないから。

 大体まばたき出来ないくらい飛び出てるのって、衛生面とか考えてもそのままじゃまずいだろ。
 傷があるってわけじゃないが見るからに普通の人より眼病にかかりやすそうだ。
 も一つ付け加えるなら、この目、出てるとなんとなく触りたくなるんだよね。
 今は我慢しているもののいつかグチャっとやっちゃいそうで怖い。 

 この期に及んで史実を重視してるわけじゃないが、伊達政宗といえば独眼竜。
 オレの知る限りでは手術が失敗してたなんて話も知らないし、ここは取るべきだろう。

 つーわけで摘出は決定事項です。 

 「佐助がオレを眠らせて固定。小十郎が施術。まあ妥当だよね」
 
 まともな麻酔もない戦国時代のお医者さんより忍者の方が人の意識を奪うのは上手そうだ。
 なんかこうNINJYA的な技で寝かしつけてくれ。
 オレって現代っ子だから我慢するの嫌いなんだよ。
 意識がなけりゃ痛いのもわかんないし、眼に刃物が近づいても怖く無い。
 だからよろしく忍者ー。

 んでもって小十郎。
 オレに剣を教えられる程度には刀の扱いに慣れていて、無駄な落ち着きが安心感を与えてくれる。
 こいつなら多少出血が酷かったりしても怯まずに事を進めてくれるに違いない。
 なによりも佐助はなんだかんだ言って子供だが、こいつは一人前の大人並みに精神が安定しとるからな。
 万が一突発的な事故が起きようとも冷静な行動が期待できる。
 
 ……まあぶっちゃけこの二人ぐらいしか頼めそうな人が思い浮かばんかったんです。
 政岡さんは女の人だからやらせたくないし、時宗丸は年齢的に無理。
 黒脛巾組はまず部屋に入ってこないから頼むに頼めない。


 ほーら二人しか残らない。・゜・(ノ∀`)・゜・。 


 「……梵天丸様」

 ただでさえ強面なのに眉間に皺を寄せるな小十郎。
 そのうち顔が戻らなくなるぞ。

 「若様……」

 男の子がそんな情けない顔するんじゃない佐助。
 将来立派な忍になれませんよ!

 こんな専門外なこと頼んじゃって悪いなーと思ってはいる。1ミリくらいは。
 結構なわがままを言ってるって自覚もある。が、オレは自重しないぜ!
 これも信頼の証と思って、一つ我慢してくれたまい。
 恨むなら俺に見込まれた自分の不運を恨め。

 「ささ、そんな固くならないで。ちょっと眠ってる間にぱっと取ってくれりゃいいから」

 既に出かかってる目だから取るのも簡単だろ。
 場所が場所だし、化膿しないといいなぁ。
 今が冬でよかった。夏よりはまだ膿みにくい。

 「痛くないようにしてくれよ。術後の手当ても任せるから」 

 医療知識については小十郎より佐助のが上だから、摘出後の処理もまかせられる。
 この日のためにお医者さんに色々頼んで用意してもらったしな。

 見よ、この素晴らしき梵天丸様眼球摘出セットを!

 まずはこれ、消毒用のアルコール。急いで作ったんで品質はお察しだがないよりマシだと信じてる。
 そして煮沸消毒した綺麗な布と包帯。更に血を拭うための布。使うのは目を取った後だな。
 で、こっちの水ももちろん一度沸かしたもの。桶は釜でぐらぐら煮てみました。
 そして切開用に手ごろなサイズの短刀を揃えて準備万端ですぜ旦那。メスじゃないのはご勘弁だ。

 オレって凄くね?
 もっと褒めてもいいよ。ていうか褒めろ。
 神棚に奉る勢いで崇めるがよい。
 今ならお布施も受け付けてます。物品可。 

 「え、切り取った目玉?いらないから鯉にでも食わせといて」
 
 自分の目玉見たがるほど悪趣味じゃないし、特に保存する意味もないだろ。
 もちろん夏侯惇みたいに食う度胸もない。
 せいぜいフライパンに乗せて「リアル目玉焼ー」とかギャグを披露するくらい?
 そんなことのためにフライパン作ってもらったわけじゃないが。

 「若様、本当にいいの?」

 「おーよ」

 「……この片倉小十郎景綱、必ず梵天丸様の御信頼に御応え致しまする」

 「う、うん」 

 つか、空気重くするのやめて。
 もっと軽いノリを維持してください。マジでマジで。


 ホントは物凄く怖いんだから。



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