梵天丸様ちょっと罪悪感を覚えられる




 おはよーございまーす。あなたの梵手丸でーす。

 あーテンション上がんねぇ。
 どういうわけかやたらと体がだるい。
 これはいかんな。なんとかしないと。

 とりあえず布団の中にもぞもぞ潜り込んでみる。
 体にくるりと掛け布団を巻きつけ、頭だけ起こして一言。

 「もすらー」


                /^⌒ヽ
                / ・○・
        /^⌒ ^⌒ ^⌒   丿
     ∽ (  (  ( (  ~丿
            ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


 ……ダメだ。本格的にダメだ。


 つーか頭痛え!!


 すっげー痛い。ガンガンする。
 未だかつて味わったことのない激痛。インフルエンザとか目じゃないね!
 ……あ、そうか、目玉取ったせいか。

 思い出したらますます痛え!!

 「ううーいたいーいたいよー」

 なんかね、意識がはっきりしてくるに従ってどんどん頭痛が悪化してってる。
 破鐘を叩くっちゅーか、鐘を頭からすっぽり被ったところを数人に囲まれてフルボッコされてる感じ。
 頭はガンガンするし眼はジンジンするし、しかもちょっとかなり気持ち悪いんだこれが。
 何なのこれ。ちょっと布団の中で身動きしただけで吐きそうなんですけど。


 あれ、これ、おれ、死ぬんじゃね?


 なーんて思った途端にしぱーん!と景気のいい音を立てて障子が開いた。

 「おはようございます梵天丸様!」

 あう……。

 「次の間へ朝餉をお持ちいたしました」

 おはよう小十郎。朝から飛ばしてるね。
 元気なのは分かったから小さい声で話せ。頼むよホント。頭に響くんだってば。

 「今日は快晴、散歩日和でございます。四駆も庭で御待ちしております」

 なんというマイペース……これは絶対に外に出される。

 にしても小十郎さんよ、なんでそんな突然アグレッシブなの?
 昨日オレの目玉抉ったの覚えてないのかよ。普通ここは安静にさせるとこだろ。
 今まであんだけ過保護だったのに突然スパルタになってみるとかどういう方向転換だ。

 「メシはいいから…ちょっとそっとしといて……」
 
 まあ小十郎がスパルタ人でもスパルタンXでもいいけど、今日はさすがに外に出たくないね。
 ぶっちゃけ死にそうなくらい頭と眼が痛いの。眼球なくても痛いとはこれ如何に。
 ハッ!これが噂のファントム・ペインって奴か!

 あ、もったいないから朝飯はお前が食ってくれ。

 「左様でございますか。仕方ありませんな」

 よろしくな。そんで障子閉めて出てってちょーだい。
 オレはこれから布団の中でのたうちまわるから。

 「では梵天丸様の目玉焼きは小十郎がいただくことにいたしましょう」


 ちょwwwその『目玉』はどこにかかるのwwww

 
 一瞬にして頭のうえに描かれる、皿の上で湯気を立てる自分の眼球の図。
 そういえば昨日ノリにまかせてリアル目玉焼きーとか言っちゃったような……。

 「ありえん!!」

 思わずガバッと起き上がって小十郎の方を見たら、すっごいいい顔して笑ってた。
 そんなエサにオレが釣られクマー!

 ……イテテテテ。
 くそ、体に力入れると痛みがより広範囲に広がる……。

 「ふふ」

 な、なんだその妙な笑み。なんでしてやったりって顔だよ。 

 「梵天丸様のために用意いたしました、梵天丸様直伝の、目玉焼きでございます」

 アッー!!
 
 ……分かった、起きる。起きるよ。
 こんな釣りに引っかかるとはオレもまだまだだね。

 「チッ、寝坊対策万全だったのに」

 何せ目ん玉取ったことなんてないからさ。
 今日起きられなかったら大変だと思って昨日お医者さんが帰った後で最低限の相談と連絡はしといたんですよ。
 伊達のトップである父上と、その愉快な家臣達にね。

 だって勝手に眼球刳り貫いて怒られるの嫌じゃん。
 今のところは、って但し書き付きだけど、オレって伊達の嫡男で跡継ぎだし。普通に考えたら小十郎と佐助は処分の対象よ?
 気が付いたら切腹されてたりすると寝覚め悪いし、べらべらと適当なこと言ってちゃんと許可は取りましたよ。
 眼球切除したほうが感染症予防にいいんですよとか、目玉が出てたら周りに舐められますからとか、腐って落ちる前に取るべきですとか。
 まあ父上は「邪魔なんで」っつったら「そうか」で終わったけど。アバウトすぐる。
 
 ともかくちゃんと事前に報告して今日一日ぐらいぶっ倒れててもいいようにしといたのにさ。

 「なんでこんな朝っぱらから起こしたんだよー」
 
 外の明るさからしていつもとほとんど変わらない時間だよな。
 しかも妙にハイテンション。どうしたのよ小十郎ちゃん。

 「申し訳ありません。つい嬉しかったもので」

 何がさ。


 「朝になっても梵天丸様が生きておられたことが」


 ……もしかしてオレが死ぬんじゃないかってずっと心配してた?

 障子開けた時やたら舞い上がってたのは怖かったから?
 その後変にテンション高かったのは安心したから?

 「ご無事で、本当に何よりです」

 いつになく邪気のない笑顔を見せる小十郎。
 普段は老けて見える容貌が今日は珍しくも年相応だ。
 そういえば小十郎ってまだ15かそこらだっけ。あんまりそうは思えないけど。

 うわー今更ながらに罪悪感……。
 15歳の少年に幼児の眼球抉らせたのかオレは。
 しかもこいつからしてみればオレって一応主家の嫡男……。

 「ごめん、小十郎」

 いくらお前が年のわりに図太くても、これはちょっとキツかったろ。
 今度からもうちょっと君が子供だってことを念頭において行動するよ。

 とりあえず後で御礼に目玉焼き作ってやるから勘弁してくれ。
 もちろん普通の卵を使った奴だからな。

 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送