梵天丸様嫌味合戦に勝利される



 片目の痛みも落ち着いて熱も下がったのでリハビリを再開することにしました。
 病気の時と違って飯だけは無理矢理にでも食ってたけど、筋肉の衰えはいかんともしがたいです。

 見よ、この力ない歩き!まるでゾンビだぜ!

 ……自虐、いくない。凹むわ。

 き、今日はどこまで行けるかなぁ。
 休み休みで四駆の犬小屋まで辿りつければいいんだけど、その前に小十郎か佐助に捕獲されるかも。
 この角を曲がったら池に面した庭が在るから、そこで一度休憩を取ってルートを考えて――――。

 「おや」

 「まあ」

 突然の遭遇。お東の方こと義姫様。梵天丸の御母上じゃございませんか。
 岩下志麻系の美貌がオレの顔を見て片方の眉をピクリと吊り上げた。
 こりゃ休憩は無理かな。
 脳裏でカーンというゴングの音がなり響いた気がするよ。

 「なんと。こんな気持ちのよい日に朝から不快な子鬼の顔を見ることになろうとは!」

 「おやおや。こんな気分のいい日に朝から聞き苦しい罵声を聞くことになろうとは!」


 そろそろ雪解けシーズン。今日は天気もよくて青空の彼方では雲雀の囀りが聞こえます。
 ほーらお庭に太陽の光が燦々と降り注いでる。
 風はまだ冷たいけどお日様はぽかぽか。池の氷は完全に溶けて、時々鯉が跳ねたりなんかしちゃって。

 こんな素晴らしい朝にはハートフルでウォーミングな心温まるふれあいがぴったりだよね!

 「ほほほ。よくもそのような醜い顔を晒して歩けたものじゃな」

 「ははは。日差しの強い日に外に出られますと化粧に皹が入りますぞ」


 でもここだけ極寒です(´∀`)


 「……そなた、顔どころか心まで醜うなったようじゃな。嘆かわしいことじゃ」

 「母上は相変わらずお美しゅうございますな。外面如菩薩内心如夜叉といったところでしょうか」

 このギスギス感……たまらん……。

 やっぱし最初がまずかったのかねぇ。
 いきなり罵られてムカついたせいでつい言い返しちゃったから。
 やっぱしあの時にちょっと悲しげに下を向いて涙ぐんでみせればよかったんだよな。
 顔を隠しながらその場に泣き伏すとか、走り去るとか。

 でもこんな小娘に馬鹿にされるのは我慢できなかったんだもん。オレは悪く無いもん……。

 「目玉だけでなく性根まで腐り果てたか」

 「腐る前にきちんと切り取りましたよ。母上の根性ではあるまいし」

 ああまた言っちゃった。

 「ほ……ほほほほほほほほ」

 顔引き攣ってる引き攣ってる。

 「ほほほほ……化け物じみた顔を見たせいで気分が悪うなった!部屋に戻る!」

 打掛の裾をばっと翻して格好いい感じで去っていく義姫様。捨て台詞が負け犬っぽいですよ。
 心なしが歩き方が荒いですよー。あと裾のさばきかたが御行儀悪いみたーい。

 「ははははははは。御気をつけて御帰りくださいませ〜」

 「五月蝿いわ!」

 わざとらしく笑いながら手を振ったら、廊下の曲がり角で怒鳴られた。


 小娘涙目wwwwwざまぁwwwww


 鬼姫だなんだと言われようが所詮はお姫様育ち。育ちの良さが災いして悪口が下品になりきれないところが甘いよなぁ。まあ下品になったらなったでそこを叩くわけだけど。
 あの程度の嫌味なんてネットの暴言や荒らしに慣れたこのオレに敵うわけないっつーの。

 「相変わらず御強うございますな」

 「小十郎か」

 オレの直ぐ横、障子の閉まってた部屋の中からすっと現れた小十郎。
 なんでか知らんけどこいつ義姫嫌いなんだよね。なるべく顔を合わせたくないみたい。
 前に顔を見たら殴りたくなるとか言ってたけど、何ゆえにそこまで嫌いなのか。

 「梵天丸様はお東の方様をよく言い負かされますが」

 うん?

 「お会いになっても嫌な顔はなさりませんな」
 
 ああ。

 「だって嫌いじゃないもん」

 まあ文句言われりゃムカつくけど、あそこまでいっちゃうと可愛いく見えてくる。
 たしか24か5でしょ?リアル弟と同じくらいの年頃だし、顔だってかなりの美人だ。
 なんだかんだ言って手を挙げられたこともないし、あの程度なら許容範囲よ。
 なんていうか、ツンデレ萌え〜みたいな。

 「ツン……?」

 「それについては後で詳しく話してあげよう」

 まずは萌えという感情について小一時間ほど。
 それが理解できたら基本たるツンデレとヤンデレについての説明。さらに発展系のクーデレと素直クールの萌えどころをじっくりと伝授してやる。
 オレのレッスンは厳しいぞ

 「難しゅうございますな」

 「大丈夫だ。お前ならきっと理解できる」

 「ありがとうございます。………時に梵天丸様」

 「なんだね」

 「御隠居を御望みとあらば、お東の方様の御不興を買うのはまずいのでは……」


   Σ(゚Д゚;ハッ!!

 
 竺丸を当主にするのはいいけど、そうなった途端用済みとばかりに母上に謀殺されたり……。
 ……いや、まさかね。まさか。そんな、ちょっとおちょくったくらいで。
 でも今は兄弟喧嘩が簡単に戦になる時代だし……。
 つーか穏便にオレが弟に家督を譲るには母上の協力が必要な気が。


   (((( ;゚Д゚)))アワワワワワ


 ど、どどどどどうしよう!!

 とにかくすぐに謝りに行ったほうが……いや、今までの経験から馬鹿にされてると思うな。
 手紙もアウト。中身も見ず破られるに決まってる。
 言伝?誠意が足りないって言われるのがオチだよ。

 う、打つ手なし!?

 「まあ私には好都合ですが」

 「は?」
 
 何か言いまして!?
 
 「いえいえ」

 どうでもいいけどお前も何か案を出せよ!
 オレの隠居と命がかかってるんだぞ!?

 「佐助ー!佐助ー!」

 とりあえず菓子折り買ってきて!
 あと土下座の練習つきあってー!!


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