梵天丸様御消沈なさる




 伊達の正月料理マジパネェとか、梵さまいっしょに双六してとか、今年から弓も始めましょうかとか、すいません時宗丸様がスキーを折りましたとか、楽しい年明けを過ごしていたところ雪解け前にうっかり熱を出して二週間も寝たきりになりました……。

 なんなんだ春。オレに恨みでもあんのか!
 つーかまた梅を見逃したよくそう。

 一年かけて鍛えた体力がまた元の木阿弥。
 リハビリが終了してほぼ完全復帰と思えた頃には桜が散って既に新緑の季節だよ。
 田植えも終わってんじゃねーか。あと知らない間に菜の花畑が拡張されてるし俺っていらない子?

 「梵さま元気ない」
 
 縁側に体育座りして「の」の字を書いていたら、朝から庭で棒というか木刀を振っていた時宗丸がよじよじと登ってきた。
 幼児が木刀で稽古ってシュールだよな。オレも同じような事してるけどさ。
 でもオレの得物は時宗丸の持ってる奴よりかなり軽くて短いやつなんだぜ。
 ガチで人としてありえねーよこいつの筋力。筋繊維どうなってんだろ。

 「そーなんだよー元気ないんだよー」

 いろいろ規格外な奴からそっと目をそらしつつ適当に相槌を打つ。
 梵天丸の体はハイスペックだが、時宗丸は廃スペック。
 この微妙なニュアンスの違いがポイントです。
         
 「ふとんしく!」                                   
 「まてい」

 風邪かなんかだと思ったのか、叫びながら立ち上がりかけた時宗丸の袖を捕まえる。

 体調が悪いわけじゃねえんだよ。気持ち的な問題なんだ。
 お子様にそういう繊細な気遣いを求めるのは早すぎるかもしれんが察して……無理かなあ。
               
 「梵さまがっかりしてる」

 うん。してるね。ちょっとね(´・ω・`)

 「どうしてそんなにしょぼんなの?」

 おまえもう少し口をつつしめよ……。
 落ち込んでる人に面と向かってしょぼくれてるとか言っちゃいけないんだぞ。

 「ねえねえどうして?」

 心底不思議そうな顔で聞いてくる。
 これは答えなきゃどこまでも追求してくるな。

 さてなんと言うべきか。

 「ええと、とりあえず搾油機製作失敗のせいだな」

 菜種油を抽出するための機械ね。機械っつーほどのレベルのものでもないが。
 今年は脱・人力!を目指して一生懸命考えた水力搾油機試作品が動作不良でオレ涙目。
 結構な力作なのになぜか動かなかったうえ、色々弄ってたら変なトコに負荷がかかって物理的に破損した。
 原因究明のため大工さん達と色々検証中だが、今年中のリカバリは無理だと思われる。

 「あとは子供らに石鹸固形化の先を越されたり」

 オレ一人でやってるより人数多いほうが効率的なのは確かだが、地味に凹んだ。
 見舞いに来た子に、微妙に柔らかいながらもちゃんと固まった石鹸を渡された時の衝撃ときたらもう。
 海藻の灰を使うといいそうですよ。教えてもらっちゃったよ……。
 
 「それからポンプの売り上げピンハネされてたとか」

 これはお金関係を丸投げした綱元さんが気づいてくれた。
 オレはいまいちこの時代におけるポンプの価値が分かっていなかったので、ものすごくいいカモだったようだ。
 やらかした商人の処遇は、とらえどころのない微笑を貼り付けた綱元さんと額に青筋を浮かべた小十郎におまかせしたから万事いいようにしてくれるだろう。
 あの二人ならきっとオレが満足するような形で決着をつけてくれるはずだ。

 
   犯人ざまあwwwwwww


 ……いやまあ、あまりの厳しさにドン引きするような事態になる可能性も高いが。
 命だけは取らないように言ってあるから頑張ってもらいたい。

 「梵さまかわいそう」
 
 遠い目をしていたら時宗丸が頭を撫でてくれました。

 真剣に言われるとオレが本当にかわいそうです。幼児に同情されるのもなあ。
 まあ暫くしたら復活するから暖かく見守っておくれ。

 「多少無気力だけど、欝ってほどのこともないしさ」
 
 あれは酷いとマジで命の危険があるらしいよ。自殺を企てたりとか。
 
 就職直後ぐらいの時に同期の奴がなりかけたんで、ちと勉強したんだよね。
 しかし奴は「かわいい彼女」という万能アイテムにより華麗に復活した。
 呪われるがいい。

 「うつー」

 その顔は分かってねえな。

 「しかしその何も考えていない顔に慰められるオレもどうかと」


 五月病には遅すぎる、戦国時代三年目です。
 なんだかなぁ……。
 
 

 

 
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