梵天丸様、市場調査を実施される




 

 侍も商人も、職人も農民さんも。老いも若きも男も女も。
 御用とお急ぎでない方々にのべつまくなし声をかけ、ちょっとしたアンケートを行ってみた。
 企画はワタクシ梵天丸。実行は猿飛佐助と黒脛巾組若手メンバーの皆様。
 ウチの領民は元々好奇心旺盛だし、所要時間がせいぜい2,3分ということもあって回答率は中々悪くなかったらしい。
 話をふった途端に「また若様が変なことしてる」という好意的な声があちこちで上がったとか上がらなかったとか。

 まあそれは置いといて、アンケートの内容を説明しよう。
 なあに、いたって簡単な質問だ。誰だって答えられる。

 
 「ここに4枚の絵があります」

 一枚目は『いかにも』な萌絵。
 エロゲやギャルゲのパッケージかラノベの表紙にいそうな美少女だ。黒髪ロングはオレのジャスティス。
 両手を胸の前で組んだポーズに表情は泣き出しそうな上目遣い。見るからに清純そうな正統派ヒロイン。
 ちなみに貧しくはありません。何処がって?言わせんなよwww

 二枚目は普通の漫画絵。
 少女漫画や少年漫画よりは青年誌の方が相応しいタイプの無骨な侍の絵。モデルは小十郎。
 斜め後ろから仰ぎ見る構図で、知人が見れば分かる程度に似せたつもりだが、似顔絵みたいなリアル系ではない。
 なんだかんだ言ってこの絵が一番描きやすかったな。
 
 三枚目はなんちゃって日本画。
 なんちゃってなのはオレが日本画とか描いたことないから。筆が滑るまま適当に描いたのは百鬼夜行図だ。
 平面的な印象を意識して、影を入れないように気を配りました。初めてだけど案外描けるもんだね。
 ちなみに四枚中もっとも時間がかかって、もっともノって描いた絵です。

 四枚目はどこかで見たようなポンチ絵。
 新聞連載の四コマか風刺画みたいな感じ。昭和を通り越して大正か明治の匂いがする絵だ。
 分かりやすい例えを出すなら『どうだ明るくなつたろう』と言いながら百円札に火をつける成金。
 あれによく似たシンプルな絵柄で、池に落ちた時宗丸を助けようと手を伸ばして落ちかける佐助の絵です。

 「この絵を、貴方が気に入ったに並べてみてください」

 さあどうぞ。


 分かったかな?オレが言ったとおり、とっても簡単なアンケートだろう?
 文字が読めなくとも問題ない。絵の右上に漢数字で番号を振ってあるが、それは集計側が理解できればいいことだ。

 初日の回答者は伊達家中の面々に、出入りの職人や商人。オレんとこの子供ら、うちの領民。
 二日目からは通りがかった旅人に声かけたり、ちょっと足を伸ばして街道まで出たりもしたらしい。
 そして今日で三日目。報告書はえらいことになっている。   同じ絵を3枚ずつ用意し、3班に分けて調査を命じておいたんだが、いつのまにか競争になっていたようだ。

 回答者数、合計3567名。

   正味二日と数時間でこの人数だ。
 学生の頃、弟がとある地方都市の駅前でアンケートやったことがあったけど、1日で千人もいかなかったんだぞ?
 21世紀の地方都市の駅前で、アンケート用紙配ってもそんな人数なのに、西暦1500年代の奥州でこの数字はありえないだろJK。
 お前らいったどこまで遠征して街頭調査してきたんだと聞くに聞けない微妙な気持ち。
 いいんだ。結果さえちゃんと出してもらえれば。

 で、その結果だけど……。

 「……戦国時代だもんなあ」

 黒脛巾組から提出された報告書を一瞥して、おもわず口からため息が零れる。

 分かってはいたけど改めて考えさせられる結果だ。
 これを見るに、オレはやはり時代を先取りしすぎているらしい。
 当然と言えば当然だよな。おおよそ四百年分未来を生きてたわけだし。

 「見事に逆順ですな」

 後ろから覗き込んだ小十郎にあいまいに頷く。

 まあ美的感覚ってのは時代によって変わるもんだしね。
 これがこの時代の一般的な好みなんだろう。

 「ポンチ絵、日本画、漫画絵、萌絵の順か……」

 ポンチ絵が抜きん出て人気があり、その後に日本画と漫画絵が僅差で続き、萌絵はダントツでビリ。

 好みもあるだろうけど、まさかポンチ絵が一番上にくるとは思わなかった。
 わかりやすいのが受けたんだろうか。
 極端にデフォルメされた萌絵が最下位ってのは理解できなくもないが、絶対日本画が一番だと思ったのに。
 てかすごい適当に描いた落書きが高評価されて地味にショックなんですけど。

 「ポンチ絵が相応しいネタっていうと、ま○が日本昔話とか四コマとかかな」

 あとは風刺画や軽いギャグ系、ほのぼの日常もの。
 さすがにしょっぱなから長編は受け入れられないだろうし、まずはコマ割りを普及させたいところだ。
 最初はコマの下に番号とか矢印をふった方がいいかもしれんな。
 色々と工夫するのも楽しそうだし、この冬は充実した時間を過ごせるに違いない。

 「ま○が日本昔話とはどのようなものにございますか」

 小十郎が妙なところに食いつきおった。

 「オレがガキの頃にテレビで見た……いや今もガキだが……うん、後で描いて見せてやるよ」

 決して説明が面倒になったわけじゃない。
 百聞は一見に如かずという言葉を思い出しただけだ。

 お待ちしておりますとか言ってる小十郎の言葉を聞き流しつつ、しばし目を閉じて思案する。

 モノがポンチ絵ならそんなに時間もかからないし、最初はオーソドックスなやつがいいだろう。
 厨房時代に古文でやった『かぐや姫』なんかはこの時代でも知られてそうだが、対象が男なら『桃太郎』あたりにすべきか。
 せっかくだから背景は水墨画調でゲームの『大神』みたいな雰囲気にしたいな。
 綺麗どころは出ないが、鬼退治をここぞとばかりに演出して青少年向けの冒険活劇にしたててやろう。
 そうそう、渡す時には横で「ぼうや〜よいこだねんねしな〜」というあのテーマを歌わないと。


 テンション上がってきた。


 「うはwwwみwなwぎwっwてwきwたw」


 うきうきと紙に向かう俺と、それを生暖かい目で見守る小十郎。
 なぜか侍女に代わってお茶を持ってきた佐助が、さりげなく紙面を覗いていく。
 まったくもって珍しくもないいつもの風景だ。
 
 ………この時オレたちは想像だにしていなかった。

 『ま○が日本昔話』が子どもらに刷られて城下で流通するようになることも。
 それが巷で大流行して、あちこちから商人が買い付けにくるようになることも。
 意図せずして広まった『ま○が日本昔話』が甲斐や美濃や京まで届き、はては四国まで辿り着くことも。

 
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