梵天丸様、鳥と御戯れになる




 

 冬。マジ冬。
 朝の挨拶が「お寒うございますね」になって、外の水溜りには薄い氷が張り、山の上が白くなってるとかどう見ても冬です本当にありがとうございました。
 おかしいなあ。三日くらい前まで秋だったはずなんだけど。
 これが晩秋ってやつですね。わかります。
 朝はきりりと澄んだ空気で冬。昼はぽかぽか小春日和で秋。
 ちょうど季節が移り変わるところだ。
 
 「もっと秋が続けばいいのに」
 
 夏よりはまだマシだけど、冬だってオレの身体には優しくない。
 去年は寝込まなかったけど毎年体調崩してたし、今年も絶対大丈夫とは言い切れなからね。
 朝も夜も冷え込み、昼間でも空は薄曇りで、雪が降り続くために外に出られない。
 奥州の冬ってそんな感じです。

 それに比べて秋はいいよ。春とはまた違った魅力だ。
 体に優しく目に麗しいだけでなく、栗もキノコも美味しくてお腹の方も大満足。
 団子をつまみつつ月にちなんで歌詠みとかしちゃって、食欲の秋に加えて芸術の秋も満喫。
 日が落ちる頃に雁かなんかが並んで飛んでくのを見ると、秋は夕暮れがいいって言った清少納言の気持ちがよくわかる。

 あ、そうそう、雁で思い出した。

 こないだ初めて鷹狩行ったんだよ、鷹狩。
 年齢的にまだちょっと早いっていうかだいぶ早いと思うんだけど、父上の後にくっついてちょこちょことね。
 いやー疲れたけど面白かった!てか感動した!
 初めて間近で鷹を見たけど、デカい奴は本当にデカいのな。
 腕にとまらせた格好は我ながらギャグみたいな絵面で笑っちゃったよ。だって翼を広げた鷹のサイズとオレのサイズがほぼ1:1なんだもん。
 笑った後でそんなもん片手で支えてる自分のスペックがちょっと怖くなったけど。

 だって鷹だよ?翼を広げると自分の頭からつま先くらいの大きさなんだよ?
 それを片手で支える幼児とか怖くね?

 鍛えれば鍛えるだけ伸びていくとかオレの体どっかおかしいって。
 この世界がパラレルワールドっぽいってのは諦めとともに受け入れたけど、やっぱこういう日常の中での違和感は地味に精神に負担がかかるよね。
 つーか、オレでこれなら時宗丸はどんだけ人外なんだろう。
 身体能力でいったら握力以外でオレがアイツに勝てることってほぼないぞ。
 立ち合ったら勝敗はトントンだけど、単純な力比べだと普通に負ける。
 こないだ素で2メートルくらいジャンプしてるのを見たし、ほっといたらそのうちスーパーサ○ヤ人みたいになるんじゃ……。
 うわあ。恐怖と期待の両方の意味でうわあ。

 ん、待てよ?奴がサ○ヤ人ならオレはなんだ。
 ……クリ○ンか?

 た、鷹狩のお話に戻ろう!

 最初に衝撃を受けたのはさっき言ったとおり鷹そのものに対してなんだけど、他に印象に残ったことっていうと、思い浮かぶのは肉。これだね。
 たまに食ってる鳥とか猪とかじゃないんだよ。21世紀でも食ったことなかった肉だ。当然スーパーには並んでいない。
 つぶらな瞳のかわいさに負けそうになったけど、食ってよかった。あれはいいものだ。


 うさぎ おいしいです。


 味はちょっと風味が強いけど鳥と豚の間みたいな感じで、食感は思いのほか柔らか。
 シチューとかに入れたらさぞかし美味しいだろうなあ。焼いても十分おいしくいただけだけど。
 思わず「うさぎおいしかのやま」と口ずさんじゃったくらいには幸せになったよ。
 鷹狩で定番の雁も何羽かゲットしたんだけど、インパクトは兎のほうが上だった。
 久々の肉だったとか自分で獲ったからとか脳内補正はあるかもしれんが、それを差し引いてもイチオシです。
 あ、獲ったのは鷹じゃんとかいう突っ込みはいらんぞ。
 実際に狩をしてたのは鷹かもしれんが、オレだって一応参加してたんだから。

 ……なんか鷹狩の感想よりも肉の感想って感じになっちゃったな。
 まあそれはそれとして、帰ってきてからちょっと思ったんだけどさ。

 オレ、鷹狩にむいてない。
 
 さんざん楽しんでおいてこの結論です。
 好きか嫌いかで言ったら間違いなく好きなんだけどね。
 鷹とか格好いい上に可愛いし、オレって基本的に動物好きだし。
 秋の晴れた空の下で野外活動ってだけでも気持ちいいけど、獲物がとれると嬉しい上に食べる楽しみがある。
 鷹狩マジ楽しい。戦国武将がハマった理由がよくわかるわ。オレもハマりそうだもん。

 でもむいてない。
 下手なんだ。獲物見つけるのが。

 時代劇のせいで誤解してたけど、鷹狩って鷹をつかって追い込んだ獲物をオレが射るわけでも、放した鷹が勝手に獲ってきてくれるわけでもないんだよ。
 まあそういう狩りもどっかにあるかもしれんけど、一般的にはオレが獲物を見つけて、それを獲るように鷹に指示して、鷹が獲ってくる。と、そういうステップを踏むのが普通なわけ。
 だからオレが獲物を見つけられないと、そのステップの一番最初の段階で躓いちゃうんだなコレが。
 それに加えて鷹の扱いもぎこちないから余計に鷹がターゲットを理解しにくい。大混乱だ。

 鷹については初心者だからしょうがないけど、時宗丸はけっこう簡単に獲物見つけてたのに、俺はてんでダメだったのが腑に落ちない
 やっぱ目が一つ足りないのが効いてるのかなあ。視野が狭いしさ。
 目が二つある人より負担がかかってる分、視力も弱くなってるだろうし。
 ぶっちゃけ四駆を連れてってなきゃ、多分獲物の八割は手に入ってなかったと思うんだよね。

 ……さっき「オレだって参加した」っつったけど、こうして考えると参加したのうちのわんわんだ。
 オレはおこぼれに預かっただけ。飼い主として情けない。これは精進せねばならんな。
 いきなり高望みはしないが、せめて五割くらいは自力で発見したい。

 「てなわけでアドバイスを頼むよ佐助くん」

 なにやら布を抱えて通りがかった少年忍者の着物の裾をキャッチする。

 日向ぼっこしてるオレの前を通りがかったのが運のつきだ。
 是非とも効果的な助言を頼む。
 たしか大きい鳥を飼ってたはずだし、忍者なら隠れたものを見つけ出すのはお手の物だろう。
 すぐに活用できそうなコツとか教えてくれたまい。

 「慣れじゃないですか?」
 
 そんな身も蓋もない。

 「習うより慣れろっつーけど、気軽に鷹狩なんてできねーよ」
 
 勝手に鷹を出したりしたら父上に怒られるだろ。
 せめてオレが元服してたら対応も違ったかもしれんが、現実は年齢一桁だもん。無理無理。

 「でも実際、目がどうとかよりも経験だと思うんですよ。あとは知識と勘」

 廊下に正座して語ってくれた佐助曰く、手っ取り早くてお手軽なのは毎日外を歩き回ることだそうな。
 山野に森林、野原などを徘徊しているうちにどこにどんな動物がいるか大体分かってくると。
 経験に基づく知識を携えて周囲を観察し、些細な変化を逃さないとかどうとか。

 「野山を歩いてみるってのはいい案だな。体力づくりにもなるし」
  
 ただし外出には命の危険と小十郎の小言が伴います。
 まあその辺は護衛つけて敷地内の散歩にとどめつつ観察力を養うってことで妥協しよう。
 現実的に考えて忍者の修行並みに山ん中うろつける身分じゃないし、する気もないから。  あ、もちろん何も言わずに一人で遠くに行ったりはしないよ。
 そういう無謀フラグを立てるには中の人が大人すぎるので。
 ……大人なんだよ!

 「しかし観察力ってどうやって身につけるんだ」
 
 ウォー○ーとか探せばいいのか。
 集中力には自信があるが、観察とかあんまり得意じゃないからどうしていいか分からん。

 「若様って気配に敏いわりに注意力散漫ですからね」

 ちょwwwおまwww

 最近の佐助は俺に対して遠慮がなくなってきてるな。
 ここんとこ時宗丸の子守をまかせっきりで放置状態だったのがまずかったのか。  それともスキーやスケートの実験台にしたり怪しい洋食の試食係をやらせたりしたのがいけなかったのか。
 でも小十郎巻き込むと小言が降ってくるし、佐助ってなんだか頼みやすいんだもん。

 「……まあとりあえず散歩の時間を増やしてみるわ。鷹については……きっと時間が解決してくれるさ」

 解決してくれるといいな。うん。
 くそう。その辺に鷹が落ちてれば練習できるのに。

 俯いて肩を落としたオレに、佐助君がポツリと意外な言葉をかけてきた。

 「鷹じゃないですけど、俺の烏使ってみますか」
 
 「烏?」

 え、あの巨大な黒い鳥って烏だったの。
 それにしてはちょっと大き過ぎないかい。
 てか鷹狩の練習に烏を使えってちょっと無茶じゃないかな。
 
 「卵から孵して仕込んだんで、若様の命令を聞くようにもできます」

 「ああ、いや」

 「さすがに若様には召喚できないですけど、そこは俺が同行すればいいことですし」

 「え、うえ?」

 「自分で獲物を見つけられますから、適当な方向を指示するだけで充分働いてくれます」

 「はわわ」

 怒涛のゴリ押し。

 そして気がついたら練習のために佐助から烏を借りることになっていた梵天丸です。
 ご好意はありがたく受け取るけど、どうしてこうなった。
 途中からヤケになってたように見えたけど、そんなに実験台が腹に据えかねていたのか。
 ごめんよ。ちょっと自重するよ。
 そしてさりげなく君の発言に紛れ込んでいたファンタジーな言葉について小一時間ほど問い詰めさせてくれ。
 召喚てどういうことだ召喚て。

 「にしても、烏を連れて鷹狩の練習ねえ」

 それってもう鷹狩じゃねーよ。烏狩だよ。 
 どう見ても晒しもんだ。「また梵天丸様か」とか言われちゃうぞ。
 時宗丸が大喜びする様が目に浮かぶ。ああ頭いてえ。 

 ……佐助は常識人だと思ってたのになあ。


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