梵天丸様子等と我が身の行く末に思いを馳せられる




 「YOU!元服しちゃいなYO!」


             . ィ
.._ .......、._    _ /:/l!
 :~""''.>゙' "~ ,、、''‐'、|         _    またまたご冗談を
゙、'、::::::ノ:::::::_,.-=.  _〜:、         /_.}'':,
 ``、/:::::::::__....,._ `゙'Y' _.ェ-、....._ /_゙''i゙ノ、ノ
 ,.--l‐''"~..-_'.x-='"゙ー 、`'-、 ,:'  ノ゙ノブ
"   .!-'",/  `'-‐'') /\ `/ でノ-〈
 .-''~ >'゙::    ‐'"゙./  ヽ.,'   ~ /
   //:::::       ',    /    ,:'゙



 


 というやり取りを新年早々父上と交わした。
 周囲がだんだん煩くなってきて、俺のストレスはマッハである。
 ほっといてくれりゃあいいのに。

 年が明けてまた一つ年を取った。
 精神は圧迫されているが、生活は充実している。
 勉強して、鍛錬して、合間に絵を描いたり料理をしたり。
 新型水車の模型作って、揚水機の設計図をでっち上げて、猫と遊んでたら父上に首根っこをつかまれて猫ごと評定に参加させられたり。

 ……そう。なんか着々と外堀埋められてるんですよ。

 評定ってのは要するに会議のことだけど、領主である父上が出席するからにはそれなりに重要なわけで。
 内容はともかくそこに顔を出すというだけでもう跡継ぎアピールじゃないですか。やだー!
 しかもまた父上がオレに狙いすました質問を投げてくるんだ。つまり技術的な質問を。
 そりゃオレだって真面目に対応しちゃうよね。数少ない取り得だし。

 そして無闇にオレの株が上がる。
 どうすりゃいいのよこの展開。

 「思い切って元服前に出家しちまおうか」

 下手に動いて家を割るわけにはいかないし、なんかもうぶっちゃけ面倒臭いわ。
 朝夕に適当なお経読んで、日がな一日絵を描いたり物を作って暮らしたい。
 ただ、今坊主になってもすぐに刺客とか送られてきそうなんだよな。
 その辺どうにかしないと危険が危ない。

 「母上を排除しちまうのが一番いいんだけど、さすがにそれは……」

 いくらなんでもまずかろう。
 最上の反応も怖い。
 今は手を出したくないのだ。勝てない相手じゃないと思うが。

 東北の情勢は相変わらず混沌としているが、父上がイケイケで暴れまわっているせいでうちの勢力は着々と増している。
 この調子だと『伊達政宗』よりも父上の名前の方が歴史に残りそうだといえば、その荒ぶり方がお分かりいただけるだろうか。
 父上世代が戦に邁進し、若手が内治を支えているのだ。普通は逆だと思う。

 カオスな状態で団結しつつある伊達家。
 オレが次代として定着しつつあるのがまずいが、それはともかくとして、今の伊達には勢いがある。

 オレがあれこれ作ってる。
 海外から色々と持ち込んでる。
 それらを上手く利用する人材がいる。
 その他諸々の要因が相互に作用しあって、現状が出来上がってしまった。
 道の整備とか地道にやってたのもボディーブローの如くじんわりと効いているようだ。
 治水とかにも手を出し始めたし。

 「あれも形になるまで数年がかりになるんだろうな」

 治水は農業の要である。
 金も人手も時間もたくさんかけることになるが、それだけの価値がある事業だ。
 一時的に財政が火の車になろうとも、リターンは大きい。
 食うものがあれば人口は増えるものだ。
 暮らしに余裕ができれば経済活動が活発化する。
 街道が整備されているから他所から人も来る。

 「冬の間は動きが鈍いけどさ」

 再開は1、2ケ月くらい先だ。
 弥生も末になれば暦の上だけでなく、本当に春がやってくる。

 家にじっと篭っていた人々が出歩きはじめ、米沢には混沌とした活気が戻ってくるだろう。
 雪が完全に溶けきる頃にはウチの孤児達も巣立つ。
 ある者は武士を志し、またある者は職人や商人を目指し、それぞれの夢のために弟子入りしたり奉公に出たり養子に行ったりする。
 卒業の時期はオレが設定した。日本人ならやっぱり門出の季節は春だよな。
 そして、出て行った奴らの大半は伊達の勢力下の地域に住み続けるのだ。
 このままの流れだと、オレが治めることになってしまう場所に。

 「うん、やっぱ竺丸が継ぐべきだわ」

 だってオレ政治ダメだもん。

 能力的にも性格から言っても向いてない。
 絶対やりたくない、と思ったことは絶対やらない人間ですよ?
 子供らのことを考えたら、絶対オレより竺丸の方がいいって。
 基本無責任だし、自分に優しく他人に厳しいこの根性は今更直らない。
 そしてなにより面倒くさい。

 「じゃあどうするかって話なんだけどなあ」

 危機感がないわけじゃないが、手立てが浮かばないのだ。
 非常に惜しいが隠居狙いは諦め、死んだことにして出奔か。
 住むなら南の方で安定した地域だな。

 「毛利元就がいる安芸がベストか」

 代替わり寸前で逃亡。
 とはいえ、今の年齢じゃどうしようもない。
 逃走資金やルートの準備をして、時期を待とう。

 「ふふふ……脳内で大脱走マーチが鳴り響くぜ……」

 慎重に慎重に、逃げ出すための穴を掘ろう。
 それが墓穴にならないように祈りながら。



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