梵天丸様白雪に無垢の黒さを垣間見られる



 
 日本海沿岸地域ほどじゃあないが、内陸の積雪量だって結構なものだ。
 厳しい寒さのわりには雪が少ない米沢だって大人の腰くらいまで積もるのだから、そりゃあ行動だって制限される。
 雪かきはもちろんするけれど、場所によっては雪を踏み固めて道にしてしまう。
 そうでもしないと本当に身動きが取れなくなってしまうからだ。

 降っては積もり、降っては積もり。
 積もった雪が溶ける前に、また新たな雪が降り積もる。
 そうして層を成して石か岩のごとく固まった雪が行く手を阻み、人々は外出を控えるようになる。
 今時分に外を出歩くのは、どうしても用事のある者や一部の酔狂な物好きくらいのものだ。


 その一部に入る人間が、身内にいるわけなんだが。  


 「梵さま!今日はスキーをいたしましょう!」

 ッターン!と某ミサワがエンターキーを叩くが如く軽やかに障子を開け放った時宗丸。
 酔狂な物好きが派手に御登場だ。
 行儀がどうとか言う気も失せるほどに纏う空気が清々しい。

 「今日は?昨日もやってなかったか」

 子供らに供まで引き連れて、通りをスキーで爆走していっただろうに。
 なぜかオレのところに苦情が来るからやめてくんないかな。
 あと、「あれは何時売り出すのですか」とかオレに聞かないでください。非売品です。
 販路とか考えるのは綱元と小十郎の仕事ですしおすし。

 「昨日は雪合戦をしておりました!」

 この深雪の中で、どこにそんな場所が……何、曲輪?城じゃん。え、怒られなかったの?
 ああ、雪を踏み固めるのに丁度いいと。
 風邪ひいた奴がいないならそれはそれでいいやもう。

 「スキーか。でも今日はちょっとな。また誘ってくれ」

 声をかけてくれたのは嬉しいが、昨晩夜更かししたせいで寝不足なんだよ。
 このまま外に出たら熱でも出すか、でなけりゃ怪我をしてしまいそうだ。
 そんなことになったら小十郎が怖い。

 「そうですか。じゃあまた体調のよろしい時に!」

 時宗丸はにっこり笑ってそう言い残し、今度はちょっと穏やかに戸を閉めて去っていった。
 空気が読めない、読む気がなかった幼児は、今や空気が読める少年に成長している。
 なんと見事な爽やかスポーツ少年に育ったことか。
 時折筋肉至上主義的なところが見え隠れするのが不安だが。

 「元気溌剌体力お化けにはカテナイヨー」

 物理的にも精神的にもな。
 元気な時でも時宗丸に最後まで付き合うのは至難の業だ。
 1日2日ならともかく雪が止んだなら毎日でも外に出ようとするバイタリティは真似できない。
 オレなんか昨年末に嫌というほどウィンタースポーツを充分堪能しちゃったから、もう自発的に外に出ようって気にはならないもん。
 室内でもできることは色々あるし、この時期は小十郎が過保護になるから心配かけるのも悪いしさ。

 「筋トレとと鍛錬はしてるから、以前ほど鈍らないはずだが……」

 ラジオ体操とか声を上げつつ毎日やってるんだぜ。
 そしてなぜか筋トレが世代を問わず脳筋の方々に流行しつつある。
 オレが各種トレーニングの話を父上に話したのが悪かったのだろうか。
 冬場は皆鬱憤がたまっているらしく、燎原の火の如き規模と速度で広まっている。
 道具も要らず自宅でできる手軽さがウケているようだ。
 もはや発生源であるオレにも手のつけようがない。

 父上は最近ランニングにまで興味を示しているから、これもそのうち知れ渡るだろう。
 春になったら皇居ランナーの如く縄張りランナーとか出はじめそうで不安だ。
 せめて仕事の合間に腕立て伏せや腹筋をするのだけは止められないものか。

 頭を悩ませつつ障子に手をかける。
 空気を入れ替えるついでに頭を冷やして、気持ちも切り替えよう。
 障子を音もなく滑らせると、一気に冷たい空気が吹き込んでくる。

 同時に、少し離れたところから、よく通る子供の声が聞こえてきた。

 「佐助ーッ!雪だるま作ろうぜ!お前が胴体な!」

 まさに外道。

 それは佐助の頭に雪玉を乗せるってことですか。
 それとも佐助を転がして雪玉にするってことですか。
 ちょっと見てみたいような、見ない方がいいような。

 「しかし、子供は元気だなあ」

 よきかなよきかな。
 どうせ大人になれば冬を楽しんでなんていられなくなるんだ。
 あと数年くらいはその調子で大いに遊ぶがよい。


 とか思ってほっこりしていたオレは、甘かった。


 「梵様、どうですかオレの作った雪だるま!」

 「あー、うん」

 再び登場した時宗丸がドヤ顔で披露した雪だるまは、とりあえずでかかった。
 もう今日は雪かきがいらないんじゃないかな。
 どんだけ雪使ったんだよ。てか、これいつ溶けるんだよ。

 雪だるまの頭頂から胴体の下部までを一瞥し、その視線を少し上げて一点に固定した。

 巨大な胴体部分があり、その上に相応の大きさのやや不格好な頭が乗せられ、頭部の中央に佐助の顔がある。
 なんだかんだいって冗談だと思ってたよ。まさか本気で実行するとは……。

 あ、佐助が泣いてる。しくしく泣いてる。

 「佐助がどうしても胴体が嫌だというので、上に座らせて雪をつけました!
  丸くするのはちょっと大変だったんですけど、途中で小十郎が手伝ってくれたんです」

 白い息を吐きながら嬉しそうに説明する時宗丸。

 「お、おう」

 他に何が言えたというのだろうか。

 ……前々から思ってたんだけど、お前もしかして佐助のこと嫌いなの?

 

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