梵天丸様家督争いの現状に頭を抱えられる



 
 昔は温和な性格だったのに、何時の間にあんなにはっちゃけてしまったのだろう。
 今も優しいところは変わらないが、落ち着きはテンションの高さにかき消されてしまったようだ。
 軽いジョークを口走っては『HAHAHA!』と笑うあの人。
 昔はオレの冗談を聞いて穏やかに微笑んでくれたのに。

 「あの頃の父上が懐かしい……」

 遠い目をして呟いても、時間は戻らない。
 父は今日も今日とて元服元服と煩く囀り続けている。
 元服したら即家督相続ですね。分かります。

 それほどまでに急いでオレを元服させようとするのはなぜか。
 後継者争いで家中が二分されるのを恐れて、などというご立派な理由ではない。
 まあ皆無ではなかろうが、隠居して遊びたいという気持ちが7割くらいを占めている。と、当の本人が言っていた。
 韜晦?冗談?照れ隠し?
 何にしても子供に仕事を押し付けようとしているのに変わりはないよね。

 マジふざけんな。梵天丸激おこです。


 「おはようございます、父上」

 「グッモーニン梵ちゃん!ちょっと元服してみたくないかな?」

 「カーッ(゜Д゜≡゜д゜)、ペッ 」


 これがオレと父上の今朝の挨拶だ。
 いくら親子とはいえ、一国の主に対する態度ではないんだが、もう誰一人として咎める家臣はいなくなってしまった。
 似たようなやり取りを何十回何百回と繰り返せば、そりゃもう皆諦めるよね。

 父上はオレに押し付けたい。
 オレは絶対引き受けたくない。
 母上は竺丸を推しているが、当の本人は興味がない。
 
 なんという醜い家督争いだ。
 親兄弟揃って当主を押し付けあっているあたり本当に醜い。

 「父上が続投すりゃいいんだよなァ」

 朝のお茶を啜りながら、1人で愚痴る。

 あの元気ならあと20年は現役でいけるだろうに。
 北条とか見習えよ。当主がめちゃめちゃジジイじゃねえか。
 国主の分際でニートになろうなんざ誰が許してもオレが許さん。

 「楽隠居なんぞさせはせん!」

 グッっと拳を握り締めたら、小十郎が廊下の角から現れた。
 あまりのタイミングに某野球選手のコピペを思い出したわ。
 グッとガッツポーズしただけで5点くらい入るやつ。

 グッとガッツポーズしただけで小十郎を召喚。
 オレも中々だな。

 「出家して悠々自適を目指される御自分を棚に上げて、よく仰いますな」

 召喚された小十郎の眉間には、いくらか皺が寄っている。
 皺の深さからしてそれほど怒ってはいないようだが、お小言が始まりそうな気配だ。
 忘れられる前に用件を先に済ませてもらおうかな?

 「よっと」

 座ったままで片手を伸ばし、小十郎が持っていたに誰かからの手紙らしきものをスッと抜き取る。
 多分これをオレのところに届けに来てくれたんだろう。
 手紙といっても見るからに改まった形式じゃないし、長文でもなさそうな感触だ。

 「梵天丸様、御行儀が悪うございます。茶碗の中身を零し……一体何を召し上がっておいでで」

 注意しかけた小十郎が、どう見ても普通の抹茶ではない色の液体を見て顔を強張らせた。

 手紙の内容のほうは……ほうほう、時宗丸からか。
 明後日晴れたら遊びに行きますよ、と。
 じゃあ何かおいしいものを用意しておいてやろうかな。

 「抹茶オレ」

 あれこれメニューを思い浮かべながら、小十郎の問いに一言で答える。

 高温殺菌した牛乳で作ってみました。
 井戸水で冷やしたから結構冷たいよ。
 そしてそれ以外に取り得がない。正直に言おう、超マズい。
 牛乳の風味以外に甘みがないし、泡立て過ぎた上に粉っぽい。
 喉越しは不快で後味が最悪。めちゃめちゃ失敗だわ。

 「よくそういうことを思いつかれますね」

 「思いついたというか思い出してるというか……いいじゃん、成果も出てるし」

 煎茶とほうじ茶と桑の葉茶は当たりだっただろ。
 蜂蜜を入れたミルクセーキも時宗丸にウケたし。
 このクソな抹茶オレだって、もっと甘ければ飲めないことはないと思う。

 やっぱ甘味料が重要だな。
 どうにかして砂糖を量産したいところだ。
 サトウキビの育成はこの辺の気候じゃ難しいから、さっさと甜菜を手に入れなくては。
 庶民でも気軽に砂糖が手に入るようになれば、茶店でミルクセーキが飲めるような日が来るかもしれん。

 そうそう、ミルクセーキで思い出した。
 卵や鶏肉食が予想より広がらないと思ったら、なんか宗教がネックになってたんだよ。
 仏教だと鶏も卵も神聖だから食っちゃあかんのだと。
 この辺は田舎だからか不信心なのか、その手の戒律は結構ユルユルだけど、都市部では待ったがかかるらしい。

 と、都から来た偉そうな態度の坊さんが言っていた。

 ( ´_ゝ`)フーン って感じだよね。

 父上も小十郎も、あの小煩い母上や僧侶の師匠でさえ何も言わなかったのにさ。

 まあでも、これから先茶々を入れられるのは嫌なので、とりあえず卵についてだけでも解決しておきました。
 具体的には、有精卵と無精卵の見分け方と生産方法を公開して黙らせました。
 小中学校でやった人もいるんじゃないかな。
 10日くらい暖めた卵に暗い部屋で光を当てると、有精卵は血管が浮かび上がって見えるってヤツ。
 無精卵の作り方もいたって簡単だ。
 雌鶏の集団に雄鶏を入れなければ、そりゃ孵る卵は産まないさ。受精しないんだから。

 で、今後は有精卵で繁殖をし、食用は無精卵のみにします、っつって追い返した。

 鶏肉は食いたい奴だけ食う方式でいい。
 卵よりよっぽど貴重品だし、目くじらたてるほどでもない。 
 しかし、伊達では大丈夫でも他所で問題になることってのも色々チェックしときたいな。
 黒脛巾組を使って外部の情報を収集していても、こういう世間の常識ってのは漏れてしまいがちだ。
 オレが現地に行ければ気付くことも多そうだが……。

 「小十郎、オレちょっと旅行に行きたいんだけど」

 「難しいことをおっしゃいますな」

 ですよねー。

 「じゃあ父上も絶対止めろよなお前。マジで」

 真顔で小十郎を見上げて言ったら、そっと視線を外された。
 おい、なんでこっち見ねえんだよ。
 ハイって言えよコラ。ああ!?

 「梵天丸様、ガラが悪ろうございます」

 そりゃガラも悪くなろうってもんでございますよ。 
 知ってるか?もちろん知ってるよな。
 父上ってば建造中の大型船で、海外に行く計画を立ててるんだぜ……。

 許さねえぞ絶対。

 「もうこの際時宗丸に伊達を背負ってもらうのはどうかな」

 父上の養子になってさあ。
 時宗丸は性格いいし頭悪くないし、本人にやる気があれば充分勤まると思うんだよね。

 「梵天丸様を差し置いて当主など、断じて引き受けますまい」

 ホントにどうすんだ伊達家。
 領内は結構景気がいいけど、御家の先行きが真っ暗闇だぞ。



 
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