梵天丸様ちょっと欝になられる




 東北の冬は流石に厳しいわー。
 雪国生まれな梵天丸の身体だからか思ってたほど辛くないけど、まぁ冷えること冷えること。
 秋までは外を転げまわってた時宗丸も今はずっと部屋に篭ってるし、四駆も厩の中に用意した小屋で震えてる。
 多分一般庶民の御宅じゃ氷点下を記録してるんじゃねぇかな。
 

 そこでコタツですよ!


 「ふぃ〜ぎゅあっと♪ふぃ〜ぎゅあっと♪」

 コタツに足つっこんで、背後には火鉢。これ最強。
 一定時間が経過したら空気の入れ替えをしなきゃなんないが寒さがしのげるだけありがたいぜ。
 
 そして引き篭ったオレが何をしているかといえば、模型作成。

 「ふぃぎゅあ・も・ある意味三次元〜」

 ん?他国のことが気にならないのかって?
 いやぁ最初は上杉とか武田とかあっちこっちに探りを入れてたんだが、今は殆ど放置しているのさ。
 外交なんて齧ったこともないし、そっちは完全に父上にまかせるよ!
 一応情報だけは集めてるけど手を出すつもりはまったくない。
 オレは自分の趣味だけでお腹一杯だ。

 というわけでポンプ式の井戸の模型を作っているのです。

 実は昨日井戸のところで可愛い女の子と会ってね。台所の下働きかなんかだったのかな?
 とにかくその子は井戸には水汲みにきてたんだけど、凄く大変そうでさ。
 手を貸してやろうにも、4歳児が手伝うったってたかが知れてるだろ。
 ましてこっちは領主の息子だ。下手にちょっかい出したら却ってその子が怒られる。

 そこで一計を案じたわけだ。
 あの子の水汲みを楽にして、ついでに領民も楽にできる技術を提供してやろうと。

 映画『となりのトト○』でサツキが使ってたあの手押しポンプ。あれなら仕組みもそう難しくない。
 実家にある奴を修理したこともあるから多分再現できる。はず。
 とりあえず作ってみないと問題点も見えてこないし、冬の間に十分の一ガッチャンポンプモデルを完成させて職人さんとこに持ち込むつもりだ。
 量産化するには設備投資がいるだろうが、その辺はまだ先の話だね。
 
 とにかくオレは机に向かって工作の日々。
 部屋に篭ってばっかりだけど中々充実した毎日だぜ。


 「……ぼんさまーなんかしよー」


 オレと比べてお前は物凄く暇そうだな時宗丸よ。

 対面に座ってコタツの天板に懐いてる幼児が、えらくつまらなそうな顔をしている。

 無理もないか。
 普段ぶっ倒れるまで外で遊びほうけてる奴が、雪が降り出してからはコタツムリだもんな。
 模型作成も進んでるからちょっと遊んでやろう。
 つっても室内じゃやることもねぇ。ゲームといったら貝合わせだの双六だの……。
 最近は一緒に手習いしてる仲だし、いっそ『いろは』のおさらいでもするか?素読でもいいが。

 「すどくはきらいだ」

 お前勉強は全部嫌いだろ。
 だからこそオレが教えてやろうと言うのに。

 よしよしと頭を撫でていたら、突然時宗丸が体を跳ね起こした。
 いきなりどうした。厠ならとっとと行って来い。
 
 「ちがう。いいにおい」
 
 ああ、そういやなんだか……。

 「ハイハイ若様方、お昼をお持ちしましたよー。開けてよろしいですか?」

 部屋の外で子供の声がする。
 どうやらいい匂いの元は佐助のようだ。
 それにしても、今日は休暇のつもりだったのになんで城内で働いてんの?
 本人がそれでいいならいいけど、お前も貧乏性だね。

 「入っていいぞ」

 「失礼しまーす」
 
 「わーい!おひるなぁに?」

 つい、と障子を開けたとたんに時宗丸がすっとんでいった。
 落ち着きがねぇなぁ。
 
 「先日若様が見本を作られた『親子丼』でーす。厨の人達が、再現できたのでご試食をお持ちしろと」

 ひゃっほう!わーいヽ(´▽`)ノ
 親子丼親子丼楽しみ〜!! 


 Σ(゚Д゚;ハッ! 


 ……いやいや、これはあくまで時宗丸にあわせただけで……ゲフンゲフン。
 精神年齢は大人だぜ!

 「佐助の分は?」

 「ちゃんと厨で頂きますのでご心配なく」

 ならいいけど。
 オレとしてはここで食ってもらっても構わないが時宗丸がいるんじゃなぁ。
 今の社会には一応身分制度ってもんがあるし、弟分が常識身につけるまでは佐助には我慢してもらわんと。
 まぁあと何年かは辛抱してくれたまい。

 さーていっただっきまーす!

 「おいしいね!」

 「うーんでりーしゃーす」

 「でりしゃす?」

 「おいしいってことさ!」

 いやぁ実に美味いわ。
 鳥肉は貴重な蛋白源だから味わって食べないと。
 庶民の食糧事情の改善のために牛乳を使った料理も広める予定だが、まだ酪農のらの字も進んでない。
 それもポンプと一緒で春にならないとなー。今は計画立てるくらいしかできないわ。
 
 ……そうだ。庶民といえば。 

 「さいきん、城下はどうなってるんだ」 

 雪が降り出してから全然外出てないし、敷地内で見かける 職人さん達ともめっきり会わなくなった。
 閉鎖された環境だと情報が入ってこなくて困るよ。
 佐助はちょこちょこ出歩いてるからなんか知ってるだろ。

 「それがちょっとマズいことになってまして」
 
 「ん?」

 「実は夏でもないのに流行り病が広がってましてね。一家全滅なんて話もちらほらと」

 げげ。

 そりゃあれか、自宅に篭ってるせいでその家の人間が全員感染したってこと?
 感染経路は知らんがおっかねー話だ……。
 ウチに来てる連中にだけでも衛生的な生活を心がけるよう触れ回っておくか。
 身の回りは綺麗に!病人と接するときは口に布を当てて!医療器具は消毒すること!
 領内に触れて回るには春を待たないと無理か。
 
 本当に冬は動けないんだな。なにもかも春待ち。

 「佐助、おまえも気をつけろよ」

 冬でも動き回ってるお前が一番心配なんだから。

 「ハイハイ肝に銘じておきますとも。危なそうなところには行かないようにしますよ」

 「うん、それが賢い」

 君子危うきに近寄らずだ。
 後で小十郎にも注意しておこう。
 



 


 ……と、言った傍から。
 自分がぶっ倒れてりゃ世話はない。






  
 ――――最初は酷い熱だった。

 次にきたのが痛み。頭は痛いわ腰は痛いわ気持ち悪いわ。
 落ち着いたと思ったらぶつぶつが全身に出はじめて、あわあわしてるうちにまた高熱。
 そしてついには呼吸困難。水ん中に無理矢理沈められてるみたいに苦しかった。
 自分の思うように呼吸ができないってマジ辛いわ。

 昭和に平成、戦国時代と合わせても、本気で死にかけたのは生まれて初めてですよ!!



    うーんうーん あついよーくるしいよー

    「梵天丸様、御気を確かに!」

    だまれこじゅーろー… うつるからあっちいけー…

    …………むしろうつしてやるー……

    ううーきもちわるーいあたまいたーい
    こしもいたいーいきがくるしいー……

    「若様、お水いる?」

    さすけもあっちにいけー…

    「でも」  

    さわるな、ちかづくな………


    しぬ。




 で、目が覚めたら片方の視界が真っ暗になってました。 


 うはwwwwオレ独眼竜wwww


 「自重しろー」とか言いつつ一人ケラケラ笑った後でちょっと空しくなる。
 うう。片目が見えなくなっちゃったよー……。
 これからは右側が見えない上に距離感のつかめない状態で生きていくのか。
 リハビリ大変そうだし慣れるまでに怪我しそうだな。
 でも泣かない。だって男の子だモン。


 ひとしきり取り乱した後でふと気が付けば外は雪だった。
 ほんの僅か、細く開いた障子の隙間から雪の積もった庭が見える。
 あんまり寒さを感じないのはこの部屋に火鉢が三つあるからかな、多分。

 寝込みだしてから日数の感覚がないけど、多分年は越しちゃったんだろうなぁー。


   ……戦国の正月味わい損ねた。   ○| ̄|_


 夢うつつでうなされている間、何度か人が声をかけてきたような気がする。
 その度に追い払ったおぼろげな記憶はあるんだが、本当に大丈夫だったんだろうか。
 とりあえず絶対に時宗丸は近づけないように頼み込んでたとこまでは覚えてる。それだけは確かだ。
 
 さて、寝てるオレに触ったのは誰かな。
 天然痘って接触感染だったような気がするんだよね………。



 「梵天丸様、お目覚めに?……っきゃあああああ!!」

 天井を見上げて考え込んでたら、部屋に入ってきた侍女が悲鳴を上げて逃げてった。
 聞こえてないだろうが一応言ってみる。

 「この布団もオレの着物もねっとーで消毒しろよー」

 多分ぐつぐつ煮ればなんとか消毒できると思うんだよね。
 瘡蓋がなんか不安だから、これが取れるまでは寝てるつもりだけども。

 「さて、どうしようかね」

 今の一幕で気が付いたんだけど、多分目玉が飛び出てるんだろうな。芽だったら笑えたんだが。
 梵天丸は将来いかにもモテそうな顔立ちだったのに、悲鳴を上げて逃げられような御面相になっちまったのか……。
 いくら造りが良くても目が飛び出しちゃったんじゃなぁ。お岩さんもビックリだよ。

 欝だ。

 ああいかんいかん落ち込んでばかりじゃ。
 とりあえず自分で自分を慰めて前向きになろう。片目だからこそできることもあるじゃないか。

 「オイ、キタロウ!」

 これしか思いつかなかったorz
 ネタが分からない物真似ほどつまらないものはありません。
 そもそも現実逃避してる場合じゃないわな。
 いよいよ仁義なき母子戦争が始まるのか……。


 やっぱり欝だ。




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