期間限定ボツ救済SS その4



 生まれて初めて戦艦に乗った。
 シェリダンで開発された最新鋭の大型陸艦だ。
 同型の艦はキムラスカにも配備されているというのに、最初に乗るのが敵国の艦だというところに運命の不思議を感じずにはいられない。
 
 しかしこんな時になんだが、戦艦に乗れるというのは心躍るものがあるな。
 いや、正しくは陸艦というべきなんだろうが、戦艦の方が響きがいいじゃないか。
 大和や武蔵、長門に陸奥。はたまた宇宙戦艦ヤマトかUSSエンタープライズか。
 世の男性なら誰しもとまでは言わないけれど、少なくとも子どもの頃戦隊物やロボットアニメに釘付けになった経験がある方には、きっとこの気持ちを理解していただけるはずだ。
 惜しくらむは、ここが海でも宇宙でもない点か。
 陸上装甲艦タルタロスはその名の通り陸を走る艦なのだ。水上走行も可能だというから正しくは水陸両用装甲艦である。
 水陸両用といわれて思い浮かぶのは海上自衛隊のホバークラフトLCACだが、ガスタービンで稼動しているLCACと違ってタルタロスは音機関稼動だ。
 音素を動力にした機械を音機関といい、音素を利用した科学技術を譜業というのだが、この音素というのがいまいちよく分からない。
 世界の全てのものに宿り一定以上の量が集まると自我を持つなどと言われると日本人的には神や妖怪や精霊が思い浮かぶが、そのわりに元素とは別のものだったり熱エネルギーを利用したり機械に組み込まれたりと中途半端に科学的だ。
 この中途半端さに勉強をはじめたばかりの頃は随分悩まされたが、最近はもう「そういうもの」ということで開き直った。ようするに全部魔法なのだ。
 実際、ファンタジーらしく音素をマナ、譜術を魔術と言い換えてもなんら違和感がない。譜業はさしずめ魔法科学といったところだろう。

 魔法科学で作られた巨大戦艦か。胸が熱くなるな。

 国に帰れば同じものがあるとはいえ、やはりこの機会にぜひとも内部を見学させて欲しい。 
 甲板には上がれるか。居住空間はどうなっているのだろう。機関室か艦橋のどちらか片方だけでも見せてはもらえまいか……などと考えていると、ついつい気もそぞろになってしまう。
 襲撃まであとどれだけの時間が残されているのかはわからないが、駆け足で見て回るくらいのことはできるはずだ。

 そのためにはまず目の前のことから片付けなくては。

 「私の我侭で迷惑をかけるな」

 年齢と外見上どうしても足りない威厳を、『いかにも』な動作と言葉遣いで補う。
 場所こそ会議室を突貫で改装しただけのそっけない貴賓室ではあるが、態度だけは王宮の謁見室で見せても恥ずかしくないものを。
 地球人の体感時間にしておよそ14年もかけて叩き込まれたキムラスカ貴族としての振る舞いを、ここで生かさねばどこで使うというのか。
 傍から見ていると厨二病患者のようだが、これもパフォーマンスと割り切ると精神的に楽になれる。

 もっとも披露する相手がこの男だと思うと、一気にやる気がなくなるわけだが。

 「いえ、ルーク様に御乗艦いただけて光栄にございます」

 恭しく答えたのは鬼畜眼鏡ことジェイド・カーティス大佐だ。  
 ゲームと違って殊勝な態度に、相手の身分と自分の立場を考慮しての言動。
 ここまでくるのに私がどれほど……というほどの苦労はしていないな。
 ストレス解消も兼ねて会う度にチクチクとイビッたあげく、礼儀がなってないから士官学校に放り込めという手紙を送りつけたくらいだ。
 苦労したのは皇帝やマルクト軍や士官学校の生徒達だろう。
 聴講とはいえまさか本気にするとは思わなかったが、あの一件によって私の中でマルクトの株はかなり上がった。

 「それで、状況はどうなっている。何か問題はないか」 

 尋ねつつも実のところさほど心配はしていない。
 何か予定外の事態が起きているようならカーティス大佐はここにいないはずだ。

 「今のところ全て順調です。導師が外へ御出でになられたこと以外は」

 それを言ったら私がここにいることも問題だな。

 「そういえばアニス・タトリンはどうしている」

 「監視に気づいた様子もなく、『予定』のとおりに動いております」

 ということはタルタロスの位置を報告したわけか。これは完全にアウトだ。

 彼女もスパイ云々はともかくとして、もう少し真面目に導師守護役を務めていたなら救いの手が差し伸べられたろうに。
 不幸な境遇には同情するが、だからといって仕事に手を抜いていいというわけではない。
 しかも導師守護役といったらダアトのトップの親衛隊だ。普通の兵士がサボっているのとはワケが違う。
 アニス・タトリンはもう少しそのあたりを考えて働くべきだった。
 今更言ってももう遅いが。

 「導師はどちらに?」

 「万が一を考え艦内で避難していただきました。護衛は導師守護役に加えマルクトからも兵士を警備に当てています」

 その守護役はもちろんタトリンではないわけだな。
 イオンにとっては不本意かもしれないが常識的な対応だ。
 殺しはしないという話だったが怪我人くらいは出るだろうし、イオンにはできるだけ安全な場所にいてもらいたい。
 立場がどうというよりも、子どもにあまり血生臭いところを見せるものではないだろう。 

 「なるほど、おおよそのことはわかった。できるなら襲撃の時間も知りたいところだが」

 「生憎とそこまでは……あと2,3時間といったところかと思われますが」

 詳しいところまでは分からない、と。仕方がないか。
 なに、あと2時間もあるなら艦内をうろつくくらいは出来る。
 そろそろ話を切り上げて見学に行かせてもらおう。

 「ああ、ところでカーティス大佐」

 「は、何か」

 「今のやりとり、なにやら悪の黒幕のようではなかったかな」

 おかしいな。
 私はキムラスカとマルクトの平和を祈っているだけなのだが。



  
  
 
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送