――嬉しい誤算と優しいからかい――ほどよいざわめきが耳に心地よい。 各所に配置され、目を楽しませる観葉植物。 辺りを柔らかく照らしだす暖色系の照明。 いかにも過ごしやすそうな食堂は、早くも乗組員達の憩いの場になっているようだ。 厨房には、かつて師と仰いだ尊敬する料理人の背中があった。 共に働いていた少女達の姿が、入れ替わり立ち代り現れる。 彼らの中に、夢を追いかけていたころの自分の幻影を見て、アキトは僅かに目を伏せた。 懐かしくて、少し苦しい。 ここは特別な場所だ。 まだこの手が綺麗だった頃。未来に希望があった頃。 自分立つべき戦場は、砲火の飛び交う冷たい宇宙空間ではなく、嵐のように忙しい厨房で。 今は血に塗れてしまった両の手は、命を奪うものではなく、命の糧を与えるものだった。 (今となっては、そんな事実は存在しないが……) アキトとアカツキの、頼りない記憶の中だけに存在する思い出だが、アキトは忘れない。 ここにいないアカツキも、きっと覚えていてくれるだろう。 その幸せな記憶こそが、今のアキトが戦うための大切な理由の一つであることを、彼は知っているから。 「結構人が残ってんなぁ。飯時は過ぎてるってのに」 同僚の物思いにまったく気づかず、ヤマダがのんきな声を上げた。 現実に引き戻されたアキトは、その声に食堂内に視線を向けた。 確かに昼食のピークでもないのに、長テーブルのそこかしこに、まだ人が残っている。 長いテーブルの間に見えるのは、ナデシコ内で最も多い整備班の青い制服と、生活班の黄色の制服。 流石に非番の者たちはもう食事を終えているようで、私服の人間はいなかった。 「襲撃のせいでシフトがズレ込んだからだろ」 「あ、ハカセ!!お疲れ!」 「セイヤさん」 5人の一番後ろから、ウリバタケが顔を出した。 振り返ったパイロット達に軽く手を上げて挨拶する。 テストの検討が終ってアキト達がブリッジに行った後も延々とデータを弄くり倒していたのだろう。 少々趣味に走りすぎる傾向はあるが、やるべきことはやる男だ。食事が遅れても文句の一つも言わない。 軽い足取りで近づいて来たウリバタケは、面識がなかった女性陣に軽く自己紹介をしてから、改めて会話に加わった。 「コミュニケに連絡来てただろ。見てねぇのか?」 「あ、私見ました!副長からですよね」 「ああ、そういえばそんな通達があったな」 「オレ、全然知らねー……」 たった二人のパイロットには、シフトが変更になろうと大した影響はない。常時待機中のようなものだ。 かなり厳しい勤務状況ではあるが、次の寄港地で補充のパイロットが来るまではこの体制でやっていかねばならない。 「……よし、天麩羅蕎麦にするか。ヤマダはどうすんだ」 そのキツイ仕事をしているはずのパイロットの片割れは、メニューを眺めて真剣に悩んでいた。 ちなみにナデシコ内では、食堂での食事一日三食と飲み物に関しては無料である。 よって、ウリバタケがヤマダに奢れるものと言ったら自販機の栄養補助食品やジュースや売店のお菓子程度。場所を食堂に限定すれば、予約の必要なパーティー料理ぐらいしかないのを、ヤマダは知らない。 「カレーライス……いや、カレーうどんだ!!」 「お前それ食うなら3メートルは離れろよ?」 「何ィ!?」 「飛ぶんだよ汁が。だから食うなら離れろ。で、アキトは?」 「火星丼」 「……まあ、行き先が行き先だからなぁ………」 ウリバタケが苦笑した。 別に特に意味があっての選択ではなかったのだが、アキトの雰囲気がそういった深読みをさせるのだろう。 「う〜ん……私はピラフにしようかな。ルリちゃんはどうするの?」 「チキンライスにします」 「あ、それも美味しそうかも。どうしようかな。ミナトさんは?」 「私はサンドイッチにするわ」 各々食べたいものを注文して席に着く。 結局普通のカレーを選んだヤマダが、カウンターに程近いテーブルの、一番端に座る。 さりげなくヤマダをマークしていたメグミが、すかさず隣の席を確保した。 座ったとたんに、アキトはウリバタケに仕事の話をもちかけ、メグミは熱っぽい目でヤマダに話しかけはじめる。 行動はバラバラだが、流れる空気は悪くなかった。 「メグミちゃん熱心ね。ちょっと羨ましいわ」 軽く頬杖をついていたミナトが、メグミとヤマダを眺めながら呟いた。 目の前ではメグミの積極的なアプローチに、ヤマダが珍妙な答えを返している。 いまいち会話が噛み合っていないようだが、メグミは幸せオーラが滲み出るほど喜んでいるし、ヤマダは気にしていないようだ。 これはこれでお似合いなのだろう。 「お嬢さんにゃ恋人はいないのかい?」。 仕事の話がひと段落したところで、ウリバタケが面白そうに聞いた。 「ミナトでいいわよ。……なかなかいい人いないのよねぇ。そっちのパイロット君なんか結構好みなんだけど、ね」 魅力的な流し目に、さりげなく視線をずらすアキト。以前の歴史で懲りたとみえて、反応が薄い。 代わりにウリバタケが身を乗り出した。 「ああ、アキトか?止めときなよ」 「どうして?」 「こいつには、もう決った相手がいるんだよ。略奪愛もちょっと無理だろうなぁ」 なにせあちらさんがベタ惚れだから、とニヤニヤ笑う。 横を向いたアキトが、テーブルの下でウリバタケの足を蹴り飛ばしたが、チェシャ猫のような笑いは消えなかった。 アキトの攻撃範囲から逃れるように離れつつ、尚も言う。 「アイツ以上にアキトに見合う相手ってのはちょっといねぇよ。残念だが諦めたほうがいい」 ミナトは充分にいい女だ。 短い会話のうちでもユーモアと機転があることが分るし、ナデシコに乗るからには能力も折り紙つき。 しかも見た目はモデル張りの美女。 出るべきところが出て、引っ込むべきところが引っ込んだ、ゴージャスかつエクセレントな肢体の持ち主である。 しかし、相手が悪かった。 隣で聞こえない振りをしている無愛想な彼には、アカツキがいる。 外見も財力も頭脳も実力も飛びぬけている上に、アキトへの傾倒ぶりが半端ではないあの男が。 結構好み、程度の思い入れでは到底太刀打ちできないだろう。 「あらら。いい男だと思ったんだけど、彼女持ちなの」 「かの……ッ!ま、まあ、とにかくそういうことだ。それよりそっちの嬢ちゃんはどうしたんだ?随分大人しいな」 唐突な話題の変更だったが、ミナトがルリの背中をポンと叩いた。 「元々無口なのよ。ねぇ、ルリルリ」 「ルリルリ?」 聞き覚えのない愛称で呼ばれ、聞き返したルリに、にこりと笑う。 「ふふ、可愛いでしょ……そういえば、ルリルリは、チキンライスが好きなの?随分迷いなく選んだけど」 ルリが会話に参加しやすいような質問をする。 秘書時代に身につけた能力が、思いがけないところで役に立った。 「はい。去年から私の保護者になっていらっしゃる方が、チキンライスのおいしいお店に連れて行ってくださったので」 「保護者?」 不思議そうな顔に、淡々と答える。 「あまり、聞いていて楽しい話でもないですよ」 「話したくないならいいの。私はルリルリと仲良くなりたいだけだし」 優しく語り掛ける声に少し思案してから、ルリはミナトの方へきちんと向き直った。 真面目な雰囲気に気づいたか、一緒に食事に来ていた4人も会話を止めて二人の方を見る。 他のテーブルのざわめきも、心なしか小さくなったようだった。 「……同じ場所で働く人間は大切にするように言われています。信頼できる人間を増やせとも」 「それは、保護者の方が?」 「はい。皆さんには知っておいていただいてもいいと思います。聞いていただけますか?」 いつもの平坦な口調がますます硬くなり、それがルリの緊張を如実に表していた。 「うん。聞かせて、ルリちゃん」 「もちろんだぜ!」 「俺でよけりゃな」 「………聞かせてもらおう」 メグミの真剣な目。 ヤマダの神妙な目。 ウリバタケの落ち着いた目。 アキトの目はバイザーの向こう側に隠れていたが、真摯な気持ちは声で伝わる。 全員の顔を見渡したルリは、ゆっくりと頷いて手を握ったミナトに視線を戻すと、おもむろに口を開いた。 「私は一般的にマシンチャイルドと呼ばれる存在です。マシンチャイルドは知っていますか」 「一応は……去年ちょっとニュースで出ていたし……」 手っ取り早くいえば、マシンチャイルドは遺伝子操作によって情報処理能力を高めた子供だ。 昨年の秋口に話題となったことがあるので、知る者も多い。 「では、昨年までマシンチャイルドのほとんどが、実験用に研究機関で管理されていたことは?」 「管理ってルリちゃん、そんな、物みたいに!!」 「実際に物と同じ扱いだったんです。……ですが一年前、ネルガル重工の動きで状況が変わりました」 「マシンチャイルドの社会復帰支援プログラムか」 「なんですか?それ」 分らなかったのはメグミだけだった。 時事に詳しいものならば、一度や二度は聞いたことがあるだろう。 ニュースに興味がないヤマダも、職業と会社の関係からある程度は知っている。 「マシンチャイルドが、普通の子供として自分の望む道を選べるように、ってやつだ。技術屋の間じゃ結構注目されてるぜ」 アキトとアカツキが行った改革のうちのひとつだ。 ネルガルは前会長の代に非合法の研究を行っていたことを公表したが、同じ研究をしていた他社よりもダメージはかなり軽かった。 会長が代替わりしていること、自ら過ちを公開したこと、被害者達に十分な補償を行うこと。 メディアを操作し、前会長時代と新会長率いるネルガルとの差異を前面に出し、クリーンなイメージを打ち出す。 そうしてアカツキが賢く立ち回ったために、世間からはむしろ好意的な目で見られている。 マシンチャイルドの話題は数週間で別のニュースに取って代わられ、マシンチャイルドのための法整備も、驚くほどスムーズに進んだ。 彼らの存在は、既に隠されたものではない。 「はぁ。でも、とにかく自由になったんでしょう?たしか、ニュースでそんなこと言ってたような……」 うろ覚えの記憶を探るメグミに、ミナトが補足した。 「いきなり放り出すんじゃなくて、ちゃんとフォローがあったんじゃなかったかしら。いくつかのケースに分けて社会復帰のための道を用意するって感じで」 そうよね?と聞くミナトに、ルリがこくりと頷く。 「身体に障害がなく、ある程度の思考能力があった私の場合は、保護者が一人つくことになったんです」 「チキンライスを食べさせてくれた人ね?」 「……はい」 そっけない返事だが、ルリがその保護者に好意を抱いていることは明らかで、ミナトはほっと表情を緩めた。 大胆な服装に惑わされがちだが、ミナトは良識的で母性の強い女性なのだ。 どこから見てもまだ子供なルリが、少しでもよい境遇にあったと聞いて、僅かながら肩の力が抜ける。 「色々な道を示されて戸惑いましたが、マシンチャイルドのほとんどが一般人と同じ生活をしたいと望みました」 人間扱いされるのが嬉しいと、泣けた子供は幸せだ。 ルリはそれが嬉しいことだというのも分からなかった。 名前さえ持たないものも多かったし、障害を持つ子供も少なからずいた。 ただ普通に暮らすことが最高の幸せだと、そう悟ってしまうほどには、皆不幸だった。 保護者のもとで暮らすようになって、ルリはようやくそれに気付いたのだ。 「でも、ルリルリはナデシコに乗ることを選んだのね」 「……学校に行くかどうか、聞かれたんですが、お断りしたんです。同年代の子供に混じってうまくやれるとは思えなかったので。それで、興味のあるものは何かと言われて……」 たまたま、本当に偶然に、ナデシコの存在を知ったのだ。 ネルガルでの定期検診の際に、待合室で漏れ聞こえた新型の戦艦とAIの話が、なぜかルリの心にひっかかった。 アキトやアカツキが介入する間もなく、ルリは保護者にナデシコについて聞き、その保護者が自分のつてを辿って、プロスペクターに連絡を取った。 まるでそれが運命だとでもいうかのような出来事。 ナデシコに興味はあれども、保護者と離れることに戸惑いや恐怖のあったルリだが、帰る場所はちゃんとある、もう自分とルリは家族なのだと言われて、搭乗の決心がついた。 「自分から進んで企業や研究機関で働いているマシンチャイルドもいるんです。片手に満たないような数ですが」 児童の就労に関しては色々と制約があるのだが、マシンチャイルドには本人の希望により就業の自由が認められている。 水面下でかなりの額の金が動いたが、これは比較的簡単に受け入れられた。 「え、ルリちゃん以外の子もネルガルで働いてるの?」 「いいえ。会ったことはないのですが、マルスにいると聞きました。ネルガルと繋がりが深い企業ですから」 「マルス?って、そこのパイロット君達の……じゃ、もしかして貴方達……」 ミナトは不意に出てきた企業名に目を丸くした。マルスといえば、パイロット達の所属する会社だ。 ならば、ルリと同じマシンチャイルドの子供達と面識があるのではないか。 女性陣が興味津々といった目で二人に注目した。 勢いにたじろいだヤマダにまで目を向けられて、しかたなくアキトが肯定する。 「そう大きな会社ではないからな」 「そういう言い方をするってことは、会ったことがあるのね?どんな子?」 どんな子、といわれてしばし考え込む。 マシンチャイルドだけあって情報処理能力は高く、それに伴って精神年齢も高い。 研究施設から出てまだ一年だが、子供ならではの順応力ですっかり周囲の環境に馴染んでいる。 仕事もきちんとこなすし、それなりに遊びも覚えたようだ。 有能、優秀、頭脳明晰。遺伝子操作の結果か、外見的にも申し分ない。 しかし、どんな子か、といわれると……。 一人は、ルリにも勝る無表情の、異様なまでの甘えたがり。 もう一人は、前回とは間逆の方向へと豹変した、元泣き虫。 アキトのコーヒーを醤油に変えたり、エリナのブラを鍋つかみにしたり、ウリバタケの靴の紐を全部繋いだり、アカツキのブランド物のシャツをマーブル模様に染め上げたりするが……。 「……二人とも、元気ないい子だ」 元気がいいのだけは間違いない。 「二人もいるんですか!」 「男女一人ずつな。年齢が近いということで保護した直後に一緒にしておいたら、仲良くなっていたらしい」 引き離そうとすると女の子が泣き喚くので、なるべく二人をセットにしてあるのだ、と説明した。 インプリンティング、という言葉がある。 俗に刷り込みと呼ばれるそれは、主に鳥類や一部の動物において見られる現象だ。 生まれた直後に目の前にあった、動いて声を出すものを親だと覚え込んでしまう……かつて自分が立った立場に、その男の子は立たされているのだ。 「片方が働きたいと言ったから、もう一人もついてきたんだ。これが前例になってマシンチャイルドの雇用が促進されれば、という狙いもあって、ネルガルもGOサインを出した」 現在はマルスの二人、ネルガルのルリで、計三人のマシンチャイルドが働いている。 まだ契約はしていないものの、数ヶ月のうちに明日香にも雇用が予定されており、他社からもオファーが来始めているので、この思惑はほぼ成功したと言ってもいい。 「……そういった前例があったからでしょうね。私もナデシコで働きたいと言ったら、条件付で認めてくれて」 「条件?」 「三食きちんと食べる。定期的に健康診断を受ける。できるだけ人と話す……今のところ、ちゃんと守っています」 全ての条件がルリの心と体の健康を気にするものだ。 「ルリルリは、大切にされてるのね」 嬉しそうなミナトの声に、黙って頬を染めるルリを見て、アキトがひっそりと微笑んだ。 前回と違って、ルリは自分から進んで心を開こうとしている。 周囲の人間とコミュニケーションをとる意思がある。 (良かった……) 自分に依存することなく、普通の女の子への道を進もうとしているルリに、安堵する。 ナデシコへの乗艦を決めてから、ずっとルリのことが引っかかっていた。 マシンチャイルドとして閉ざされた世界で暮らしてきたせいか、一般常識に疎く無表情だった少女は、しかしアキトの予想を裏切って、豊かとはいえないまでもはっきりと感情を表に出した。 共に働く相手を仲間として自分のことを話そうとした姿には、人形のような造形美ではない、血の通った愛らしさがあった。 声をかけなければ食堂にさえ足を運ぼうとしなかった彼女が、これほど早くナデシコに溶け込んでくれたのは嬉しい誤算だ。 「あ、チキンライスが来たわよ」 ミナトが弾んだ声を上げ、テーブルの空気がふわりと和んだ。 操縦士用の待機室、というものがある。 格納庫の隣の、色気もそっけもない長椅子とちょっとばかり大きめのロッカーが置かれた小部屋で、主に操縦士がパイロットスーツに着替えたり、出撃予定時刻までの間待機するのに使われる予定だ。 前回は緊急出撃だったため出番がなかったこの部屋だが、今回ようやく初使用とあいなった。 ブリーフィングだ。 メンバーはパイロット両名と、コミュニケにて顔を見せている副長。 たった3人ではあったが、各々の実力は軍の一部隊よりはるかに勝る。 大きなフライウィンドウの中のジュンは、2人の顔を見比べてからあっさりと言った。 「今回の作戦は……いや、作戦というほどのこともないかな」 「なんだそりゃ」 のっけから出鼻をくじかれたヤマダが脱力する。 「そういう顔をするな。ナンバーワンが敵は休眠状態だと言っただろう」 「言ったっけ?」 「言ったんだ。アレはこちらに気づいていないんだって?」 アキトの問いをジュンが肯定した。 「その通り。というわけで艦長の打ち出した作戦は、グラビティブラストによる狙撃だ」 「ヘェ、いきなりガツンと一撃かますわけか……って、おい!」 「うん?」 聞き捨てならない、とばかりにヤマダが慌てて立ち上がる。 画面に詰め寄る姿はどこか間抜けだ。 「この作戦のためにオレのエステを改良してたんじゃねぇのか?急ぎだって言ってたじゃねーか!!」 エステバリスを出す理由はなんだ!と吼える。 声高に不満を述べるヤマダの首根っこを、アキトがひっ掴んで座らせた。 この同僚には実力行使と決めているようだ。 「お前にもちゃんと出番はある。自分の腕がどれほどのものか知るいい機会だぞ」 「わけわかんねぇ」 「後で分かる。ナンバーワン、続けてくれ」 「……パイロットはエステに搭乗してナデシコの護衛。テンカワ・ヤマダはナデシコの上空で待機しつつデータを採ってくれ」 「へーへー」 「01、02とも整備班が空戦フレームに換装してくれている。02は外だけじゃなくて中も変わっているそうだから注意するように」 「中?」 「なんでもレベルCへの移行が済んだからどうとか……意味が分るか?」 「ああ、なるほど……02のセッティングとプログラムの事だ。間に合ったみたいだな」 昼食に遅れた甲斐はあったらしい。 「ふむ。まあそういうことだそうだから、承知しておいてくれ」 「りょーかい」 「了解」 同時に上がった二人の同意の声を確認して、再び続ける。 「作戦開始予定時刻は1500。グラビティブラストで敵が消滅しなければ、エステが再チャージの時間を稼ぐ。敵に何か動きがあったときも同様。艦長の命令に従って動くように、だそうだ」 「艦長の命令ねぇ」 なんともいえない微妙な顔をしたヤマダを見て、ジュンとアキトが苦笑した。 たしかにあの軽い艦長の様子に不安を感じるのは分る。 エステバリスの出番があるかどうか定かではないが、艦長の指揮がまともかどうかも定かではない。 「まあ大丈夫だと思うよ、最悪でも副提督がいるし。で、質問は?」 「ないない。出番も期待できない」 「ん。じゃあ解散!」 ジュンの言葉で席を立つと、ヤマダはバタバタと待機室を出て行った。 エステエステと歌うように口ずさんでいる。 大方空戦フレームを見に行くのだろう。 「………例の『さくら』の件はどうなってる」 ドアを背にしたアキトが、未だ残っているウィンドウに向かって目を細めた。 ジュンが軽く手を動かすと、アキトのコミュニケがデータの受信を告げる。 「予定通りだ。ネルガル経由で艦長にプロテクト付きの連絡が来たけど、ユリカは見てないからね。今ブリッジにいるのは僕だけだし」 「セイヤさんは?」 「コミュニケにそれと同じデータを送っておいた。副提督には僕から伝えるよ」 ジュンがにっこりと笑う。 穏やかだが、どこか迫力のある笑顔だ。 ユリカが見たら身震いする類の表情である。 「……その笑い、アカツキに似てきたんじゃないのか」 思わずといったようにポツリと口にしたアキトに、ジュンが吹き出した。 「っははは!た、確かに僕はどっちかっていうと彼のタイプだけど、あれほど怖くはないよ。君、もうアカツキが恋しいのか」 「そういうつもりで言ったわけじゃない。」 「いや、いい傾向だと思うよ?せっかくだから地球にいるうちに話しておけばいいのに」 揶揄するような声音に、僅かな心配を感じて、アキトは気まずげに背を向けた。 からかわれるのも苦手だが、こうして気遣われるのも困る。身の置き所がない。 とにかく、この状況から逃れる手は………。 一時撤退しか、思いつかなかった。 「部屋に戻った時に話したから、いい。」 捨て台詞のようにそう呟くと、素早く待機室のドアを開ける。 背後のウィンドウから聞こえた爆笑を遮るように、素早くドアを閉め、深い溜め息をついた。 「なんでこう俺のことなんか気にするんだ……」 皆君のことが好きだからだよ、と言ってくれる男は、今隣にいない。 コミュニケで時間を確かめると、アキトは気を取り直してエステの方へ歩きだした。 見晴らしのいい傍らの寂しさには、気付かない振りをして。 2005.6.27 後書き反転↓ やれやれ、なんとか繋げたぞ!からかわれアキトが結構評判よかったのでちょっと横道にそれてみました。戦闘になるとアカツキ出せないし(笑) ルリの保護者は……一応細かい設定こそあるものの、ほぼオリキャラですので今のところ出すつもりはありません。 話を進めるのに必要でなければできるだけオリキャラは出さない方針でいこうかと。逆に、名前が出るということは、原作かアニメかゲームか映画のどれかに名前ないし存在が出たキャラだとお考えください。質問があれば出展を出します。 | |
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