携帯電話で10のお題

配布元 taskmaster

 奇しくも100,000HITとタイミングが重なりました。
 でも別に記念というわけでもなく……。

 麻衣の携帯電話は薄い水色だと可愛いと思う。
 なんとなくぼーさんはダークレッドかメタリックブルー。リンさんはブラックかシルバーで会社員のように。
 ぼーさんの着メロはコロコロ変わりそうだけど、リンからの着信音だけ変わらないといい。
 そしてこっそりリンの着信音と同じだったらなおいい。

時系列は   3.受信ボックス1.着信音 →4.カメラ付ケータイ8.待ち受け画面  です。










1.着信音


 
 ピリリリ ピリリリ ピリリリ


 スタジオの片隅に置かれていた滝川の荷物から、不意に電子音が鳴った。
 2,3秒で沈黙したそれに、立ち話をしていた滝川が慌てて駆け寄る。

 「おいおい、どうせメールだろ?後で見りゃいいじゃないか」

 後ろからかけられた声に、携帯を掴んだ滝川が、ニヤリと笑って答えた。

 「相手によるんだよ!」

 いつもの軽快な着信メロディではなく、無機質で事務的な着信音。
 どんな曲を設定するのも躊躇われて、結局こんな音になってしまったけれど。

 この音が示すのはただ一人。 
 
 これほど恋しい相手もただ一人。










2.メモリ 000










3.受信ボックス




 春は終わりに差し掛かり、けれど夏にはまだまだ早すぎるこの時期。
 大分日が長くなったとはいえ、5時も半ばを過ぎればそろそろ太陽も沈み始める。

 終日晴天だった空は、青から黄へ、橙から朱へと次々に色を変えていく。
 夜の気配が滲み出すまでのほんの一時に駆け抜ける鮮やかな変化。
 太陽の最後の光は朱から赤へと色を強め、街を茜に染め上げる。


 綺麗な夕焼けだった。
 
 
 渋谷道玄坂、SPRのオフィスの窓にも夕日は射し込んでいた。
 バイトの少女は学校があるため、ネオンの灯る時間になるまで訪れない。
 したがって、オフィスの中にはたった一人。

 カタカタとパソコンのキーを叩いていたリンは、画面に反射した西日に目を細めてその手を止めた。
 小さく息を吐いて首をぐるりと回すと、間接からバキリと派手な音がする。

 「…………」

 そろそろ疲労も隠し切れなくなってきた。
 先月立て続けに調査が入ったせいか、まとめなくてはならないデータが山積みになっている。
 ナルがいれば嬉々として書類の山に埋もれるのだろうが、あいにく彼は出張中だ。
 英文での報告書作成をバイトの二人に任せるわけにもいかず、皺寄せは全てリンの上へ。
 
 疲れた。

 と、言ったところで仕事がなくなるわけでもない。
 そしてまた、無駄な弱音を吐くようなリンでもなかった。
 とりあえず今週中にできるだけ片付けて、来週また頑張るしかないだろう。

 ため息一つで気を取り直し再びカタカタとキーボードを叩き始めた。
 が、1分もしないうちにその手を止める。 


 ピリリリ ピリリリ ピリリリ


 仕事を妨害したのは携帯電話だった。
 たった三回で切れた着信音。
 鳴動時間の短さによってメールだろうと察しをつける。


 ―――――メール。

 
 リンの携帯にメールを送る人間は限られている。
 ナルやまどかならよほどのことがない限り、まず電話をかけてくるだろう。
 仕事関係や実家からの緊急連絡もまた同じ。急ぎ出なければパソコンのほうへメールが送られる。

 だから、不意に送られるメールの主は。

 素早く手を伸ばして携帯を引き寄せ、二つ折りになったそれを広げて受信メールを確認する。
 先ほどまでと比べて明らかに動作が速いのは言うまでもない。
 読み込みの時間すらもどかしかったが、ようやく開いたメール画面に予想通りの名前を見つけて、思わず笑みを浮かべた。 

 
 『
  07/4/24 17:55
  From 滝川さん
  Sub 凄い夕焼けだな
 
   金曜から三日間暇だ。
  もし時間があれば連絡
  してくれ。
  仕事、無理するなよ。

          ‐END‐』


 短いメッセージの最後の言葉に、苦笑しながらもどこか気遣わしげな顔を思い浮かべる。
 最後に会ったのは、今月の頭。
 既に一月近くの時間が過ぎていた。
 
 「三日か」

 パソコンのそばにおいていた卓上カレンダーを見れば、本日は火曜日。
 金曜から休みを取り週末を何の懸念もなく過ごすには、これから三日で仕事を全て片付けなければならない。
 しかもその一日目はすでに終ろうとしている。
 できるだろうか?
 来週持ち越しが確定と思われたこの量を、今日からたった三日で終らせることが。
 
 「できるな」
 
 睡眠時間を犠牲にすれば。

 リンは静かに笑った。
 滝川と過ごす三日間のためならば、その程度のこと造作もない。
 無理をするなと怒られるかもしれないが、今はそれすらも楽しみだ。

 改めてメールを読み返す。

 『凄い夕焼けだな』 

 促されるように窓の外に目をやれば、近頃稀に見る見事な夕暮れ。
 いまだ日は落ちきっておらず、柔らかな赤い光がオフィスを照らしている。
 

 「……あぁ、あの人の光だ」

 
 ぽつりと、思ったことがそのまま口からこぼれた。
 
 滝川を象徴するような、包み込むような穏やかな赤。
 命の色だと思ったことはあったが、こうして見ると夕焼けの色にも似ている。
 いや、夕焼けのほうが似ているのだ。優しい、愛おしいあの赤に。
 
 夕陽が夜に融けるまで、焦がれるように外を見つめ続けたリンは、おもむろに新規メールの作成画面を開いた。
 
 メールへの礼。 
 金曜から休みをとること。
 仕事の方は問題ないということ。

 貴方のような夕焼けでした。と結んでから、送信する。

 受け取った滝川は照れるだろうが、正直な気持ちだった。
 そして貰ったメールは受信ボックスで保護をかける。
 週末までの動力源だ。  

 
 「さて」


 部屋の電気をつけて再度パソコンに向き直る。
 暫く離れていたためかスクリーンセイバーが起動していた。

 エンターキーを打って流れる映像を止めると、文書作成画面を開く。
 フル回転する思考回路を更に加速させながらも、その手は決して止まらない。
 メールを見る前の数割増しの早さでキーを叩き、画面をスクロールする。
 完全に仕事に集中しながらも、心の底で思うことはただ一つ。


 早く。早く。もっと早く。


 貴方に似た夕焼けよりも、本物の貴方のそばに。










4.カメラ付ケータイ



 「じゃーん!ついに私も携帯電話を購入しましたっ!」
 
 「へぇ、ようやく持ったんだ。でも支払いは大丈夫?勤労学生」

 「平気だよー。ここ給料いいし、別に意味もなく使うつもりはないもん」

 「ま、最近は使用料安くなってきてるしねぇ」

 「あたくしと同じ会社ですわね。たしか少し前の型ですけれど、綺麗な色ですわ」

 「ありがと。ちょっと古いけどすごーく安かったし、ちゃんとカメラだってついてるんだよ」

 「あら本当……って、あんた早速使ったの」

 「えへへー。これが近所の猫でしょ、こっちは学校の友達で、あとは安原さんとー、ぼーさんとー」

 「安原さん、凄いカメラ目線ですわね……」

 「少年ってばバリバリの営業スマイルだわ」

 「こちらの滝川さんのうたたね写真なんて、いつお撮りになりましたの?」

 「ん?ああ、この前お茶した時にね。綺麗に撮れてるでしょ?あとね、ジョンの写真も……」

 「谷山さん、すみませんがお茶を……」
 
 「あ、リンさん!今いれますね。いつもと同じで?」

 「ええ。ああそれから、その滝川さんの写真後で転送していただけますか」
 
 「へ?あ、はい………」
 
 「では、よろしくお願いします」 



 「……最近臆面がなくなってきたわね、あの男」

 「滝川さんが知ったら憤死すると思いますわ」

 「何?あれだけ扱いが違うのに未だにバレてないと思ってんの?あの男」

 「リンさんが上手に立ち回っていらっしゃいますもの。牽制しつつも、滝川さんには気付かれないように」

 
 「なんていうかさあ……………恋って、人を変えるんだねぇ」










5.センター問い合わせ


6.未送信メール


7.充電切れ










8.待ち受け画面




 「ねぇ、綾子」

 話題が途切れ、わずかに降りた沈黙の中。
 アイステイーを飲む綾子に、頬杖をついてチャイを飲んでいた麻衣が、ポツリと言った。

 「何よ」

 返事をしつつ、僅かに片方の眉を上げる。

 霊能者の第六感とでもいうべきか。
 妙に落ち着いた声音になんとな嫌な予感がして、綾子は持っていたグラスをテーブルに戻した。
 
 「一昨日の、ぼーさんの写メのことなんだけどね」

 「イヤなこと思い出させないでちょうだい」

 言われた言葉に思い切り顔を顰めた綾子に、それでも麻衣は言葉を止めない。

 「あれ、リンさんの携帯の待ち受けになってるの、知ってた……?」

 グラスを置いておいてよかった、とその瞬間綾子は思った。
 手に持っていたら取り落としただろうし、口に含んで居ようものなら間違いなく吹いていたに違いない。

 「それ、冗談?」

 一縷の望みを託して聞くも、麻衣はふるふると首を横に振る。

 「昨日リンさんが携帯開いたときに、偶然見えちゃって。もう一ヶ月くらい会ってないみたいだしねぇ」 

 同情するような麻衣の言葉は、綾子の耳を素通りしていく。

 
 なにそれ?嫌味?
 アタシが独り身だからって見せつけてるの?
 ていうかあんたらそんないい年してなんで高校生みたいなイチャつきかたしてるのよ!

 ガタン!と椅子をどかして勢いよく立ち上がった綾子の額に、麻衣は見えない青筋を見た。


 「ちょっとリンに一言言ってくるわ!」


 ………人はそれを、八つ当たりという。










9.ストラップ

10.圏外

 
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