<見てしまった>
SW(シルバーウィークなんて本気で定着するのか?)が過ぎて1週間。
もうすぐ10月も迎え、秋も深まり始めている。
連休明け、小山は清水寺から飛び降りる勢いで佳主馬に頭を下げた。
その幼なじみの手助けもあったとはいえ、その一件は小山のお手柄である。
何せ。
それ以来、近寄りがたかった佳主馬が、普通に話しかけられるクラスメートになったからだ。
文化祭準備により、強制的に居残りや集団での行動が多くなり、彼の人となりを知って、それは加速した。
無口ではあるけれど、問えば返すし、ゲームにも詳しい。
特に、発売前のゲーム情報には強いし、OZを使っていない(と言っている)割にOMCにも詳しい。
そんな人材を、男子が手放すわけがない。
昼休みの後半は、決まって佳主馬の席の周りに何人もの男子が集まって話に花を咲かせている。
しかし、ここで重要なのは、昼休みの後半、ということである。
そう、後半は男子に混じって(混じらされて?)話に加わっている佳主馬。
だが、昼休みの前半は、決して教室にいないのだ。
少なくとも、夏休み前はそんな事はなかった。
大抵、静かに本を読んでいるか、宿題をしているか。
パソコン持込禁止の所為で、仕事が出来なくて大人しくしていたとは知らない彼らは、勝手に教室で静かに過ごすのが好きなのだと思いこんでいた。
しかし、夏休みが明けてみれば、必ずどこかへ消えてしまうようになっていて。
小山がしてしまった事を知っているクラスメートとしては、居づらいのでは、と小山に責める視線を送ったりしていたのだ。
だが、仲直りした後でも、その習慣は変わらなくて。
話しかけられてウザいのかとも思ったのだが、彼の性格からしてそれならそれで言うだろうというのが全員一致の意見だ。
なら何故か。
仲良くなればなるほど、更に相手を知りたくなる。
特に好奇心の旺盛な中一が、その欲求に勝てるわけがない。
昼休みの前半、食事を終えると決まっていなくなる佳主馬が、皆、気になって仕方なかった。
そしてやってきた昼休み。
小山以下、クラスメートの有志が、こっそり佳主馬の跡を付けた。
屋上は基本的に人が来ない。
公立中学の屋上なんて、衛生上、来たい場所でもないからだ。
まして、上履きのまま入るには勇気が要る。
だが、佳主馬は躊躇なく入っていく。
それにゴクリと息を呑んだ。
ドアをくぐった佳主馬を追って、ドアを少し開けてみる。
しかし、意外と綺麗になっていたのに驚いた。
「連休中に、業者が入ったの」
生徒が知らないだけで。
小山の後ろから高橋が呟いた。
「――――・・・大丈夫だよ」
微かに、声が聞こえた。
ドアに詰めかけていた全員が、口を噤む。
薄く開いたドアから、柵に寄りかかっている佳主馬が見えた。
しかし、小山を始め、全員が固まってしまう。
――――――――――アンタ、誰でしか(マジで)。
「うん・・・、あ、そうそう」
まだふにゃふにゃで可愛いんだ。
携帯に合わせて首を傾げて、声に集中するように目を細めている。
しかも、応える声が甘い。
相手が何か言ったのか、幸せそうに微笑んだ。
うわ、うわ!と内心、大パニックになり、全員が自分の口を塞ぐ。
そうでもしなければ、声を出して絶対不可侵的な空気を壊してしまいそうだった。
あの無愛想で、滅多に口元を緩ませることすら少ない佳主馬が。
大切だと言わんばかりに、大切そうに一言一言を口に乗せる。
その場だけ世界が変わっているかのように、後ろに見える空さえも違って見えた。
ヤジを飛ばすことも忘れて、皆、顔を真っ赤にしながら見入るしかないまま、時間は過ぎていく。
◇◇◇
だが、ある意味で幸運すぎる時間は、そう長く続かない。
彼が電話を切った途端、皆、ヒッと息を呑んだ。
気づいていないと思っていた佳主馬が、ピンポイントに小山達を睨んでくる。
解っていても知らないフリを通すほど相手が大事と取るべきか、見せつけられたと言うべきか。
同じ笑みなのに、先ほどとは天と地ほどの差がある恐怖が小山達を襲った。
「邪魔するなら・・・」
その先は言わなくても解るよね。と言わんばかりの無感情な目。
笑っているはずの口元から、絶対零度が流れているようだ。
全員が全員、心臓を鷲掴みされるような威圧感を受けて固まる。
感情がないからこそ、邪魔した時の恐ろしさは推して知るべし。
この時はまだ、佳主馬が、受験こそしていないが少林寺拳法三段と同じ腕前を持っているとは知らなかったのだが。
それこそ、肩書きよりも、視線と声だけで、彼は周りを圧倒した。
そんな相手へ、たかだか中学一年生如きに何が言えよう。
彼がそれほどまでする相手、気になろうとも触らぬ神に祟りなし!
しかし、こちらにも(?)、強者はいたのだ。
皆が恐縮して視線を逃す中、たった1人だけ、真っ正面から佳主馬を見た人間。
高橋はニッコリ笑って佳主馬に聞いた。
「彼女?」
ピシリ、と空気が固まった気がした。
しかし、意外にも佳主馬はそれまでの空気を和らげて目を細めた。
おそらく、その人を思い出しているのだろう。
「・・・・・・違うよ」
穏やかな声。
例え、違うとしても彼にとって同じような存在であることは間違いないだろう。
皆、その答えにゴクリと唾を飲み込んだ。
その後、1−2全員によって、屋上が綺麗になった情報が隠されたことは言うまでもない。
世界が終わる前に
様で15000カウントを踏んで頂いたサマーウォーズSSです。
今年の夏SWにハマり、一週間かけてサーチ内のカズケンサイトを端から絨毯爆撃いたしました。
そして日参巡回ルートに組み込ませていただいたサイト様にて、まさかのキリバンゲット!
キリリク「健二に対する佳主馬の態度を見て衝撃を受ける同級生」に対して予想以上の素晴らしいお応えくださいました。
こんなところからでなんですが、改めてお礼を申し上げます。
ありがとうございました!
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